就労相談課から、パティスリーの開店許可が降りたと片倉が言いに来たのは数日後のことだった。
取引に応じてくれた農家とも契約を交わし、無事に店を切り盛りすることが出来る。来週のオープンに向けてやる気が湧いてくる。
「今週のフリーペーパーにパティスリー・プティジョアが載ります。チラシは霊界庁でコピーしてきますね」
「ありがとうございます。何から何まで片倉さんのおかげです」
「……あ、いえ、全然、俺何にもしてませんよ。電話したくらいで」
「そんなことないです、片倉さんがいなかったら何も踏み出せなかった」
「……少しでもお役に立てたんなら良かったです」
あれ? おかしい。片倉の表情が冴えない。紡木の心はざわついた。いつも一途で真っ直ぐ前を見ている片倉がうつむきがちでいることに、紡木は違和感を覚えた。
「片倉さん、どうしました?」
「え?」
「何だか今日、元気なさそうで」
「あ、あ、すいません。心配させてしまって」
「俺で良ければ話聞きますよ」
「いや、いや。うん、何でもない……いや、どうなんだろう」
ためらう様子を見せたあと、片倉が口を開いた。
「……今日、通知が来たんです」
「通知?」
「天界移籍勧告の通知です」
天界移籍。霊界庁へはじめて行った時にたしか説明を受けた。生きていた時の未練が解決出来ると、人は天界へ移籍するのだ。
「片倉さん……」
「たしかに霊界へ来た時持っていた俺の未練は解決しました。食べたかった牧瀬さんのモンブランが食べられたんですから」
片倉の言葉を受けて、紡木は返す言葉が見つからなかった。息を呑み、下を向く。
未練が解決して天界へ行けるのなら喜ばしいことじゃないか。おめでとう、と一声掛ければいい。片倉がいつまでも霊界にとどまる理由はもうない。
けれど、紡木はどうしてもその一言を声に出すことが出来なかった。
片倉が天界に移籍する。そうなれば、きっともう二度と会えない。成仏というのはそういうことだろう。
紡木の作ったモンブランを美味しそうに食べてくれた片倉。何か出来ることはないかと奔走してくれた片倉。何事にも前向きで、落ち込む紡木をいつも励ましてくれた片倉。
紡木にいつも笑いかけてくれる片倉がいなくなる。そう考えると、紡木の胸は痛んだ。
(俺はどこまでも好きな人と添い遂げられない運命なのかな)
取引に応じてくれた農家とも契約を交わし、無事に店を切り盛りすることが出来る。来週のオープンに向けてやる気が湧いてくる。
「今週のフリーペーパーにパティスリー・プティジョアが載ります。チラシは霊界庁でコピーしてきますね」
「ありがとうございます。何から何まで片倉さんのおかげです」
「……あ、いえ、全然、俺何にもしてませんよ。電話したくらいで」
「そんなことないです、片倉さんがいなかったら何も踏み出せなかった」
「……少しでもお役に立てたんなら良かったです」
あれ? おかしい。片倉の表情が冴えない。紡木の心はざわついた。いつも一途で真っ直ぐ前を見ている片倉がうつむきがちでいることに、紡木は違和感を覚えた。
「片倉さん、どうしました?」
「え?」
「何だか今日、元気なさそうで」
「あ、あ、すいません。心配させてしまって」
「俺で良ければ話聞きますよ」
「いや、いや。うん、何でもない……いや、どうなんだろう」
ためらう様子を見せたあと、片倉が口を開いた。
「……今日、通知が来たんです」
「通知?」
「天界移籍勧告の通知です」
天界移籍。霊界庁へはじめて行った時にたしか説明を受けた。生きていた時の未練が解決出来ると、人は天界へ移籍するのだ。
「片倉さん……」
「たしかに霊界へ来た時持っていた俺の未練は解決しました。食べたかった牧瀬さんのモンブランが食べられたんですから」
片倉の言葉を受けて、紡木は返す言葉が見つからなかった。息を呑み、下を向く。
未練が解決して天界へ行けるのなら喜ばしいことじゃないか。おめでとう、と一声掛ければいい。片倉がいつまでも霊界にとどまる理由はもうない。
けれど、紡木はどうしてもその一言を声に出すことが出来なかった。
片倉が天界に移籍する。そうなれば、きっともう二度と会えない。成仏というのはそういうことだろう。
紡木の作ったモンブランを美味しそうに食べてくれた片倉。何か出来ることはないかと奔走してくれた片倉。何事にも前向きで、落ち込む紡木をいつも励ましてくれた片倉。
紡木にいつも笑いかけてくれる片倉がいなくなる。そう考えると、紡木の胸は痛んだ。
(俺はどこまでも好きな人と添い遂げられない運命なのかな)



