「片倉さん……?」
「俺、牧瀬さんのモンブランを食べて思いました。ここへ来て不安な人、落ち込んでいる人、そんな人たちを元気づけるケーキだって。霊界にもたくさん人はいます。宣伝を打ってみんなに来てもらえればきっと流行ると思うんです。俺もできる限りお手伝いします。やりませんか? パティスリー」
片倉に最後の一押しをされて、紡木の心は決まった。どうせ霊界にとどまるのなら楽しんでやろう。紡木は自然と頷いていた。
「やります。片倉さんにそう言ってもらえて心が決まりました」
やった! 上を向いてガッツポーズを取る片倉の様子があまりにも正直過ぎて笑ってしまう。紡木の感情も解放されていくのが分かる。片倉といると、塞いだ気持ちが明るくなるみたいだ。
「明日、就労相談課で待ってます」
「はい、よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
片倉の差し出した手が紡木を待っていた。紡木がその手を握ると、ぎゅっと力強い無言の返事とともに、なんとかなると思えるあたたかい微笑みが返ってきた。
「パティスリー専門の卸業者は残念ながらヒットしませんね……」
「そうですか……」
翌日、就労相談課に仕入先のマッチングを依頼しに来た紡木は、早くも困難に直面してしまった。案内してくれた片倉と顔を見合わせる。
「少し遠いところとか、範囲を広げてもだめですか?」
「霊界庁の権限が及ぶのは日本国内に限るんです」
たしかにピンポイントで製菓材料の業者を探すのは難しいとは思う。霊界でエンカウントできるタイミングはそうそうないだろう。
「一旦出直して来ます」
「お役に立てずすみません。パティスリーの開店許可はすぐに降りますので、手続きしておきます」
頭を下げて、就労相談課をあとにする。片倉が紡木のあとを追ってきた。
「牧瀬さん、お役に立てずすみません!」
「いいえ、片倉さんのせいじゃないですよ。当然のことながら俺の考えが甘かった。そう簡単に仕入先は見つからないです」
生きていた時は、友成の取引している仕入先を紹介してもらったものだ。思えばいろいろと恵まれていた。大口の顧客だって何箇所か友成から回してもらったのだから。
「俺は独立したつもりでいたけど、全然そうじゃなかったんだなぁ……」
「牧瀬さん?」
「あ、こっちの話です。このくらいで諦めるわけにいかないので、店に帰ってあれこれ考えてみます」
紡木の言葉に、片倉が立ち止まって何か思案し始めた。何を考えているんだろう。紡木も一緒になって立ち止まる。
「牧瀬さん、パティスリー開店の宣伝とかチラシ配りとか、今やれることは何でもやっておきたいんで、今日店へ行ってもいいですか」
「へ?」
「俺、牧瀬さんのモンブランを食べて思いました。ここへ来て不安な人、落ち込んでいる人、そんな人たちを元気づけるケーキだって。霊界にもたくさん人はいます。宣伝を打ってみんなに来てもらえればきっと流行ると思うんです。俺もできる限りお手伝いします。やりませんか? パティスリー」
片倉に最後の一押しをされて、紡木の心は決まった。どうせ霊界にとどまるのなら楽しんでやろう。紡木は自然と頷いていた。
「やります。片倉さんにそう言ってもらえて心が決まりました」
やった! 上を向いてガッツポーズを取る片倉の様子があまりにも正直過ぎて笑ってしまう。紡木の感情も解放されていくのが分かる。片倉といると、塞いだ気持ちが明るくなるみたいだ。
「明日、就労相談課で待ってます」
「はい、よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
片倉の差し出した手が紡木を待っていた。紡木がその手を握ると、ぎゅっと力強い無言の返事とともに、なんとかなると思えるあたたかい微笑みが返ってきた。
「パティスリー専門の卸業者は残念ながらヒットしませんね……」
「そうですか……」
翌日、就労相談課に仕入先のマッチングを依頼しに来た紡木は、早くも困難に直面してしまった。案内してくれた片倉と顔を見合わせる。
「少し遠いところとか、範囲を広げてもだめですか?」
「霊界庁の権限が及ぶのは日本国内に限るんです」
たしかにピンポイントで製菓材料の業者を探すのは難しいとは思う。霊界でエンカウントできるタイミングはそうそうないだろう。
「一旦出直して来ます」
「お役に立てずすみません。パティスリーの開店許可はすぐに降りますので、手続きしておきます」
頭を下げて、就労相談課をあとにする。片倉が紡木のあとを追ってきた。
「牧瀬さん、お役に立てずすみません!」
「いいえ、片倉さんのせいじゃないですよ。当然のことながら俺の考えが甘かった。そう簡単に仕入先は見つからないです」
生きていた時は、友成の取引している仕入先を紹介してもらったものだ。思えばいろいろと恵まれていた。大口の顧客だって何箇所か友成から回してもらったのだから。
「俺は独立したつもりでいたけど、全然そうじゃなかったんだなぁ……」
「牧瀬さん?」
「あ、こっちの話です。このくらいで諦めるわけにいかないので、店に帰ってあれこれ考えてみます」
紡木の言葉に、片倉が立ち止まって何か思案し始めた。何を考えているんだろう。紡木も一緒になって立ち止まる。
「牧瀬さん、パティスリー開店の宣伝とかチラシ配りとか、今やれることは何でもやっておきたいんで、今日店へ行ってもいいですか」
「へ?」



