あれから、半年が経ち、相変わらずレオは授業前後に関わらず俺に絡んでいた。
周りからは、レオを手懐けている先生と認識されている。
「ねーもうすぐ春休みなんだけどぉー?みすみん?」
「もう、みすみんって呼ぶなって」
「いいじゃん、可愛くて」
この半年の間、レオは俺の言った通り、学生と先生の壁を無理に乗り越えようとしなかった。
そのかわり、体育館に来てはテストの成績が悪かったとか、バイトがだるいとか、たわいもない話をしていた。
「なあ、レオ。授業の片付け手伝ってくれないか」
「んー?いいよぉ?みすみんから言ってくんの珍しーね」
「たまにはいいだろ」
「全然ありよ」
軽く了承して、テキパキと授業で使った備品を体育倉庫に戻していく。
「せんせ、これで最後ー」
「はいよ。ありがと」
全て仕舞い終わったところで、レオが体育倉庫に入ってきた。
「どしたの?今日」
レオの鋭さにつくづく感心する。
「……レオ。俺な、この大学から離れるわ」
「え?なんで?オレがいるから?」
「んーまあ、そうっちゃそうだな」
「なんで?オレのことが嫌で辞めるの?そんなに邪魔だった?……会えなくなんのやだよ……」
あまりのショックだったのか、レオの顔は歪み、眉間に皺が寄っている。
「ちょ、待て待て。すまん、言い方が悪かった」
相変わらず不安そうな表情を浮かべているレオを落ち着かせようと、いつもよりゆっくりと話す。
「あのな、レオのことが嫌になったんじゃない。むしろ、お前との関係を正しいものにしたくて離れる」
「どゆこと」
「このまま、この大学にいて、レオとの仲がもっと深まったとする。そうすると、お互いが関係を隠し続けなければならない。いつ周りにバレるかと神経をすり減らしながら過ごすことになるだろ」
「……うん」
あまり想像できていなさそうではあったが、俺は話を進めた。
「そんな誰もが受け入れられないような歪な関係を築きたくないんだよ。だから、同じ大学の教師と学生っていう立場を解消して、大学で教鞭を取っている人間と大学で学んでいる人間同士の付き合いに変えたいわけよ。わかる?」
「……わからん。けど、わかる」
不安そうな顔から一生懸命に理解しようとする顔に変わったレオはうんうん、と何度も頷いている。
「要するに、先生の立場も俺の立場も守れるギリギリラインに行こうぜってことだよね」
不思議な要点の掴み方だったが、概ね合っている。
「そうだな」
「じゃあさ、外でデート、してくれる?」
「っはは。そればっかじゃん。いいよ」
「やったぁ!じゃ、早く次の大学に移んなきゃ」
「現金なやつだなー、お前」
「いいの、いいの。じゃ、LINE教えてよ」
「後でな。ただ、まだ俺はここでの勤務残ってるからその間はなんも出来ないからな」
「はいはい。これで我慢しときますよっと」
そう言ってレオは俺の手を取り、手の甲にキスをした。
「みすみんのスマホ取ってくる!」
「なんでお前が俺のスマホ取りに行くんだよ」
「え?そこに置いてる鞄の中っしょ?」
「いや、そうだけど」
俺の返事を聞かずに体育倉庫を飛び出て行った。
「……はあ、やっぱ若いっていいよな。羨ましいよ、あんな勢いに任せて突っ走れるの」
レオの後ろ姿を見ながら、ボソボソとつぶやいた。
「なんか言ったー?」
くるりと体育館の中で振り向き、返事を返してくる。
(っふふ。耳良すぎかよ)
「なんも言ってねーよ」
「ふーん?」
聞こえていても、聞こえてなくてもどちらでもいいかと思った。
「これからどうなりますかね……」
この金色の髪をした年下の彼にまだまだ振り回される未来が見える。
社会経験を重ねて、凝り固まってきた俺にとってレオは少し……いや、かなり必要な人物になっていくのだろう。
周りからは、レオを手懐けている先生と認識されている。
「ねーもうすぐ春休みなんだけどぉー?みすみん?」
「もう、みすみんって呼ぶなって」
「いいじゃん、可愛くて」
この半年の間、レオは俺の言った通り、学生と先生の壁を無理に乗り越えようとしなかった。
そのかわり、体育館に来てはテストの成績が悪かったとか、バイトがだるいとか、たわいもない話をしていた。
「なあ、レオ。授業の片付け手伝ってくれないか」
「んー?いいよぉ?みすみんから言ってくんの珍しーね」
「たまにはいいだろ」
「全然ありよ」
軽く了承して、テキパキと授業で使った備品を体育倉庫に戻していく。
「せんせ、これで最後ー」
「はいよ。ありがと」
全て仕舞い終わったところで、レオが体育倉庫に入ってきた。
「どしたの?今日」
レオの鋭さにつくづく感心する。
「……レオ。俺な、この大学から離れるわ」
「え?なんで?オレがいるから?」
「んーまあ、そうっちゃそうだな」
「なんで?オレのことが嫌で辞めるの?そんなに邪魔だった?……会えなくなんのやだよ……」
あまりのショックだったのか、レオの顔は歪み、眉間に皺が寄っている。
「ちょ、待て待て。すまん、言い方が悪かった」
相変わらず不安そうな表情を浮かべているレオを落ち着かせようと、いつもよりゆっくりと話す。
「あのな、レオのことが嫌になったんじゃない。むしろ、お前との関係を正しいものにしたくて離れる」
「どゆこと」
「このまま、この大学にいて、レオとの仲がもっと深まったとする。そうすると、お互いが関係を隠し続けなければならない。いつ周りにバレるかと神経をすり減らしながら過ごすことになるだろ」
「……うん」
あまり想像できていなさそうではあったが、俺は話を進めた。
「そんな誰もが受け入れられないような歪な関係を築きたくないんだよ。だから、同じ大学の教師と学生っていう立場を解消して、大学で教鞭を取っている人間と大学で学んでいる人間同士の付き合いに変えたいわけよ。わかる?」
「……わからん。けど、わかる」
不安そうな顔から一生懸命に理解しようとする顔に変わったレオはうんうん、と何度も頷いている。
「要するに、先生の立場も俺の立場も守れるギリギリラインに行こうぜってことだよね」
不思議な要点の掴み方だったが、概ね合っている。
「そうだな」
「じゃあさ、外でデート、してくれる?」
「っはは。そればっかじゃん。いいよ」
「やったぁ!じゃ、早く次の大学に移んなきゃ」
「現金なやつだなー、お前」
「いいの、いいの。じゃ、LINE教えてよ」
「後でな。ただ、まだ俺はここでの勤務残ってるからその間はなんも出来ないからな」
「はいはい。これで我慢しときますよっと」
そう言ってレオは俺の手を取り、手の甲にキスをした。
「みすみんのスマホ取ってくる!」
「なんでお前が俺のスマホ取りに行くんだよ」
「え?そこに置いてる鞄の中っしょ?」
「いや、そうだけど」
俺の返事を聞かずに体育倉庫を飛び出て行った。
「……はあ、やっぱ若いっていいよな。羨ましいよ、あんな勢いに任せて突っ走れるの」
レオの後ろ姿を見ながら、ボソボソとつぶやいた。
「なんか言ったー?」
くるりと体育館の中で振り向き、返事を返してくる。
(っふふ。耳良すぎかよ)
「なんも言ってねーよ」
「ふーん?」
聞こえていても、聞こえてなくてもどちらでもいいかと思った。
「これからどうなりますかね……」
この金色の髪をした年下の彼にまだまだ振り回される未来が見える。
社会経験を重ねて、凝り固まってきた俺にとってレオは少し……いや、かなり必要な人物になっていくのだろう。



