先生、好きになってもいいですか

それからというもの、第3回、第4回目の授業に山崎は遅刻していた。

第5回目の今日も遅刻し、体育館の隅でうなだれながら見学している山崎に授業が終わるとすぐに声をかけた。

「山崎ー、もうちょっとだけ早く来れんか。出席してても連続して遅刻してたら、出席日数まずいことになるぞ」

授業の出席回数には規定があり、一定数を超えると自動的に単位を落としてしまう。

だから、欠席しがちな学生や遅刻が多い学生を見ているとヒヤヒヤする。

「いやぁ……眠くって。朝、起きられないんすよ、オレ」

山崎は大きい身体を床にべたっと横たわらせている。

「大学を卒業したら社会人になるんだから、時間は意識して生活しなさい」

そんな山崎に目線を合わせるようにしゃがんで、ジロッと目を細くして言った。

「うーん、だって……」

「はぁ。俺も朝めっちゃ弱いけど、死ぬ気で起きて、授業に来てるんだからな」

「え、三隅先生も朝弱いんすか。体育会系の人って全員朝強いと思ってた……」

上半身をむくっと起こし、足を広げた長座で座る山崎は目をぱちぱちとさせた。

「そんなわけないだろ、どんな偏見だよ」

たしかに俺は幼い頃からバスケをしていたし、大学まで続けていたから山崎のいう体育会系の人間で間違いない。

これまで朝練や夕方練が当たり前の世界で育ったはずなのに、俺は朝起きるのが苦手だ。

だから俺は毎週この1限目の授業に間に合うように必死に起きて通勤している。

「あ、じゃあさ、先生。起こしてよ、授業ある日」

良いことを閃いたとでも思っているのだろう。

山崎は目を細めた猫のような表情で俺を見た。

そもそも、しれっと教師に向かってそんなことを言えるこいつの度胸に驚く。

「オレ、先生がモーニングコールしてくれたら起きるかも」

「なんでだよ。普通、先生からの電話なんて嫌だろ」

「んー他の先生なら嫌だけどー。でも、三隅せんせーは何か違う気がすんだよなー。だから良いや」

「ははっ。俺も他の先生と一緒だよ」

「じゃ、来週も遅刻しちゃうなー。オレ、単位取れないじゃん」

「は?人のせいにするな、自力で起きる努力をしろ」

「え、やだ」

目鼻立ちも整った顔をしているのに薄っぺらい甘え方をする山崎を見て、こうして女の子も口説いてたりするんだろうなと、ため息をついた。