山崎玲央(やまさき れお)は、目が離せない学生だった。

山崎は三隅拓真(みすみ たくま)が勤務している大学の学生で、ちょうど三隅が担当している実技授業を受講している。

最初の出会いは体育館ではなくメールで、件名も入れずに「初回の授業休みます。山崎玲央」とだけ送ってきていた。

そんな彼への三隅からの第一印象はレオという猛々しい名前が似合わなそうな子だなというくらいだった。


 第2回目の授業終わりに山崎が話しかけてきた。

「あの……三隅先生」

授業中からも思っていたが、山崎は軽く180cmは超えているであろう長身に、薄い身体から伸びる長い手足、それに金色に染まった癖のない長めの髪と、どこか日本人離れしている風貌をしていた。

「オレ、前回欠席したんすけど、なんか配布物あったっすか?」

俺は昔バスケをしていたこともあって、それなりに背の高さに自信があったが、近くに来た山崎はそんな俺よりも高かった。

「ああ、あるよ。ちょっと待ってな」

俺は手に持っていたプリント類の中から、この実技授業の進め方や単位の出し方、受講上の注意が記されたプリントを抜き出して山崎に渡した。

「……ありがとうございます。あと……」

心配になる程の細い身体から発せられる声はボソボソとしていて聞き取りづらい。

「ん?どした?」

「ちょっと、持病があるというか……身体あんま強くなくて、記憶の保持が難しいんすよね……」

不健康そうな見た目から何かあるかもなとは思っていたが、記憶の保持が難しいと言われるとは思わなかった。

「そうか。具体的にどうして欲しいとかある?」

「えっと……たまに端で休ませてもらいたいのと、メモ取らせて欲しいっす……」

「ん、わかった。まぁ、実技だし無理せず授業進めていこうな」

実技の授業を行なっていると、学生の怪我や持病の有無などにはかなり敏感になる。

だから、あらかじめ持病の有無や配慮の必要がある場合は、診断書などを提出してもらい把握できるようにしている。

「あと、一応それをそれを証明できる書類とか持ってきてもらえると助かるんだけど、すぐ出せそう?」

「あ……来週か、再来週でもいいすか」

「まぁ、大丈夫といえば大丈夫」

「あざす。……では」

山崎は軽く会釈をしてから、のそのそと歩いて体育館を出て行った。

覇気のない受け答えをする明らかにひ弱そうな山崎を見て、前期の途中でフェードアウトして授業に来なくなりそうだなと思った。