いつも通り母さんの見舞いを終わらせて、桂木さんの病室に向かっていると忙しない看護師たちとすれ違った。

…今、桂木さんが目を覚ましたって言わなかった?


病院は走ってはいけないとわかっていながら、小走りで桂木さんの病室に急ぐ。


「…泣いてるの?」


勢いよく顔を上げた桂木さんと目が合う。

ずっと閉じられていた瞳が真っ直ぐ俺を見つめている。


「…小野寺くん?」


少し控えめな透き通った綺麗な声だった。

ずっと聞きたかった声で俺の名前を呼ばれるのはなんだかくすぐったくて、でも嬉しかった。


「…あのね、小野寺くんに聞いてほしい話があるの」


俺も君と話したいことがたくさんあるんだよ。

この世界の君は、そんな風に笑うんだね。

どこか懐かしくて、泣いてしまいそうになるほど美しい。

世界で一番綺麗な眠り姫に恋をしてしまった俺の話も、いつか君に聞かせるよ。

この世界で君と過ごす時間はまだまだ続いていくから…。