「すごいよ、莉奈!すげぇでかい!」

「うん、すごいね」


無邪気に笑いながらキラキラとした目で水槽を眺めている小野寺くんに、微笑ましくその姿を見つめる。


「俺、小学生の頃に一度だけ家族で東京に来たことがあるんだ。その時に水族館に初めて来て、あまりにも綺麗で夢中になって、父さんと母さんが帰るよって言っても聞かなかったらしい」

「そうなの?なんだか小野寺くんらしいかも」

「はは、なんだか懐かしい。ずっと昔のことのように感じるなー。…もうずっと家族で出かけてないんだ。俺の母さん、病気でね。転校してきた理由も、田舎の小さな病院じゃなくて東京の大きい病院に移るためなんだ」

「え…?そう、だったの…?」


だからクラスメイトたちに転校してきた理由を聞かれた時、わざと違う話をして話題を変えていたんだ…。


「本当はあまりこの話したくなかったんだ。どうしたって暗い話になっちゃうだろ?だけど、莉奈は特別。俺の彼女で大切な人だから、俺のこと全部知ってて欲しいんだ」


ぎゅっとさりげなく手を握ってきた小野寺くんが優しく微笑んできた。

こんなに優しくて愛されているのだと実感しても、いつか私から小野寺くんが離れる日が来るんじゃないかとそんなネガティブなことしか考えられなかった。

だから離れないように、小野寺くんの手をそっと強く握り返した。