小野寺くんは私が知らないだけできっと告白を何回も受けてきたに決まっている。

それなのに私は小野寺くんが今私を想ってくれていたとしても、いつか気持ちが揺らぐかもしれないなんて考えたことがなかった。

いつの間にか小野寺くんはずっと私の隣にいてくれるのだと自惚れていたんだ。

その油断のせいで、まだ私だってしていないのに他の女の子にキスをされている小野寺くんを見て頭が真っ白になった。

あれは小野寺くんの意思じゃないと、事故のようなものだとわかっていても、黒い感情が胸の中に渦巻いていて呑み込まれそうだった。


「…小野寺くん。どこか寄って帰りたい。私たち、デートだってまだだったでしょ…?」

「え?うん、いいけど…」


今は少しでも小野寺くんと一緒に過ごしたくて、心の穴を埋めるかのようにそんな大胆な提案をしていた。

小野寺くんの彼女は私なのだと安心したかった。



電車に乗って、小野寺くんと近くの水族館に来た。

平日の閉館間際の時間だからか、暗い水族館を歩いていてもすれ違う人は数人で静かな時間が流れていた。


「水族館来たのって小学生ぶりとかかも」

「本当?私はたしかずっと小さい頃に一度来たことがあるけど、それ以来来てないかも…?」


小学生の頃の記憶を思い出してみようとするけど、なぜかモヤがかかっているかのようにうまく思い出せなくて曖昧な答えを返す。

小野寺くんはそんな私に気にした様子もなく、大きなサメが泳いでいる水槽に駆け寄って行った。