俺の好きな人には、彼氏がいる。生まれた時から、そいつの隣は俺だって決まっていたはずだったのに、いつのまにやらその決まり事は破棄されてしまったらしい。

「ショーゴ!!」

 幼馴染みというのは厄介で、俺がこの町を出ない限りはどう頑張っても顔を合わせなきゃいけないわけで。
 何も知らないそいつは呑気に俺の名前を呼んで、今日もあははとバカみたいに笑っていて。

 自分を大切にするんだったら、いくらでもこの気持ちを伝えてしまおうと思うのだけど、そんなことをしたらこいつが困ることは目に見えているから、俺はいつもその言葉を紡げないまま、「よぉ」と腑抜けた返事をする。

「最近どうなん?」
「え? あー、彼氏と?」

 バカだ、と瞬時に思う。自分から傷つきにいってどうする。傷つくことはわかりきっているのに、この先どれくらい傷つくかわからないから、早めに耐性をつけようとしてしまう自分の悪い癖だ。

 傷ついた分だけ人は強くなれる。それが本当ならば、今のうちにたくさん傷ついておけば、こいつに彼氏がいることも、彼氏との思い出話を聞くことも、なんら苦ではなくなって、いつか慣れることができるだろうか。

「うん、順調だよ。ありがとね」
「……そか」

 ふ、と笑いがもれる。自嘲だ。
 しっかり傷ついている自分が乙女チックで、こんなんじゃなかっただろ俺、とつくづく自分の弱みを意識する。

「ショーゴも彼女作ればいいのに。せっかくモテるのにもったいないね」

 モテたって意味ないよ、お前以外には。そんな言葉をぐっと飲み込んだ。

 どうせなら、どうせだったら、全部この気持ちを伝えてしまって、俺だけ楽になってしまいたいのだけど。全部伝えてしまったあと、こいつが困っている顔が安易に想像できてしまうから、自分が傷つくのは嫌なくせに困らせるのは嫌だから、結局今日も「好きだよ」の言葉は喉を通らないまま、俺の身体に蓄積されては増幅していくのだ。


 じゃね、とそいつが言う。「おう」と俺が言う。そいつの姿がドアの向こうに消えて、ゆるやかな安堵が襲ってくる。

 この想いに終わりなんてきっとない。だから高校卒業と同時に、俺はこの町を出て、新たな場所で、新たな恋をするしかない。

 だからどうか、俺のいない場所で、俺からは見えないところで、そっと幸せになっていてほしいと、思う。
 幸せをまっすぐに祝うことは出来なさそうだけど、どうか幸せであるようにと、俺はいつもそっと、願っている。