普通になりたかった。
 目立たなくてもいいから、なんでもそつなくこなせる能力が欲しかった。

 いや、ほんとうは少しだけ、秀でた何かがほしかった。
 たったひとつだけでいいから、普通にプラスアルファで、何か、人の目を引くような魅力が欲しかった。

 ステージに立つ人間を見た時、そこに至るまでの背景を無視して、私がそこに立ちたいと思うほどに強欲である。

 ダンスも、吹奏楽も、サッカーも、バスケも。全部できる人間になりたかった。目立ちたかった。
 やってみたらできちゃった、と言って、人に囲まれて笑っているような、チームの中心人物として頼りにされて、一目置かれるような、そんな存在になりたかった。

 このどうしようもない承認欲求を、自分で満たせるような人間になりたかった。
 自分の機嫌を自分でとれる人間になりたかった。
 人の栄光を素直に称えられるような人間になりたかった。

 人の輝きを見た時、そのまばゆさに自分の影の暗さを見つめて虚しくなる人生を送りたくなかった。

 私は、わたしなりの方法で、幸せになりたかった。



 私には「なりたかった」ものが多すぎる。
 けれど、私は「他の誰か」になりたかったわけではない。

 生まれ変わっても、私は私で生まれたい。
 ただ、今の私にもうひとつ、なんだっていいから自慢できることが欲しかった。
 それだけだ。

 私は他の誰かにはなれないし、他の誰も私には、なれない。

 きっと生涯をかけたとしても追いつけない人がいて、超えられない壁がある。
 結ばれない恋も、実らない想いもある。

 だから私は、私だけは、自分を肯定してやるのだ。

 強欲な自分も、自己愛が強いくせに自己肯定感は低い自分も、生きるのが下手くそな自分も。


 他人が、くだらないと批判するかもしれない、惨めだと笑うかもしれない自分自身を、自分だけは愛してやろうと思う。

 そうやって今日も、私は必死に息をしている。