「また伸びたんじゃない?」
その声は、ちょいと浮ついて聞こえた。
いや、今に始まったことやないか。
「髪すいてくれや」って頼むと
こいつは決まって「仕方ないわね」と
無愛想に答えるくせして
なんやかんや、ご機嫌に俺の髪をすく。

「まあな」
「めんどくさがりなくせに、
手入れはちゃんとしてるのよね」
「それが紳士の嗜みっちゅうやつやからな」
「似合わないこと言っちゃって。
じゃあ、すくのも自分でやってくれないかしら」
「いやや。お前にやってもらうんが ええねん」
「変なの。 …でも本当にきれい」
「せやろ。
お前も伸ばしたくなってきたんちゃうか?」
「うーん…」
「なんや?」
「いや、私はこのままでいいかなー、なんて。
やっと扱いにも慣れてきたし… なにせ、楽なのよ」

楽…ね…。

俺は別に、今の短い髪がイヤっちゅうわけやない。
ただ、無邪気にキャッキャッしとった
あの頃のお前を取り戻させたいだけや。
ホンマは伸ばしたがっとるお前の
後ろ髪を引く過去、悲しみと
決別させてやりたいだけなんや…。