――ああ、よかった。
 浴槽に浮いている彼女の死体を見たとき、わたしは思った。

 水の上には、色とりどりの花が敷き詰められていた。彼女の血で染まった水の赤を、覆うように。一面に広がる花の中、埋もれるように、彼女は浮いていた。胸の上で手を組んで、どこか遠くを見つめるような目を、天井へ向けて。

 きれいだった。
 なんの混じりけもなく純粋に、心の底からそう感じた。
 彼女の透き通るように白い肌も、水中に広がる黒い髪も、人形のように整った目鼻立ちも。
 なにも変わらなかった。わたしがひと目見た瞬間に心を奪われた、美しい彼女のまま。
 そしてこれからも永遠に。
 彼女はこの美しい姿のまま、わたしの中で生きていく。

 ――そのことに、わたしは心の底から安堵したのだ。