王城の玄関前に移動して、用意された救援物資の毛布や食材を僕とスラちゃんのアイテムボックスに分けて収納します。
 たくさんの建物が壊れているという話だけなので、実際に現地に行って被害状況を更に確認します。
 ちなみに、被害を受けたヴィッツ男爵領はドラちゃんなら二往復できる距離だそうです。

 シュイン、ぴかー。

「グルアー!」
「「おおー!」」

 ドラちゃんも大きくなって、スタンバイ完了です。
 アーサーちゃんとエドガーちゃんも、大きくなったドラちゃんに大興奮です。
 やっぱり、小さな子はドラゴンに夢中なんですね。
 僕たちも、大きくなったドラちゃんに乗り込みました。

「父上、状況が分かったら一旦王城に戻り報告を行います」
「うむ、頼んだぞ」

 見送りに来た陛下に、ヘンリーさんが挨拶をします。
 僕たちも見送りの人たちに手を振り、ドラちゃんは空高く舞い上がり目的地まで飛び始めました。
 高速で飛ぶ中、大体二十分後には眼下に目的地のヴィッツ男爵領が見えてきました。

「わあ、地面がひび割れています!」
「これは、思っていたものの何倍も酷い状況だわ。土砂崩れも起きているわね」
「建物がぺちゃんこです。こんなことが起きるなんて」

 僕だけでなく、ナンシーさんとエミリーさんも地震の衝撃の大きさにビックリしていました。
 土砂崩れに地面のひび割れ、そして崩壊した家屋。
 幸いにして領主の屋敷は壊れていなかったので、その前にドラちゃんは着陸しました。
 ドラちゃんから降りていると、僕たちのところに領主と思われる若い男性が駆けつけてきました。
 汗をかいて袖をまくっているので、色々と指示を出していたのでしょうね。

「はっ、はっ、へ、ヘンリー殿下、王都より来て頂き感謝申し上げます」
「いやいや、ヴィッツ男爵も大変なところ痛み入る。王都に状況を伝えるため、私も会議に参加しよう」
「はっ」

 ヘンリーさんは、ヴィッツ男爵と屋敷に入ったので、僕たちは手分けして作業を行おう。
 シンシアさんの指示に従って、対応する事になりました。

「先ずは、持ってきた救援物資を玄関ホールに出しましょう。教会は無事で、怪我人が運ばれているらしいわ。エミリーとナンシー、それにナオ君に教会に行ってもらいましょう。ドラちゃんとスラちゃんは王城に行くだろうから、屋敷で私と共に行動しましょう」
「「「はい!」」」
「キュー!」

 分担も決まったので、さっそく移動を始めます。
 崩れた家の人命救助は既に駐屯地から到着した軍が行っているので、素人の僕たちは下手に手を出さない方が良いそうです。
 僕たちは、出来る事を頑張らないと。
 教会に入ると、数多くのシスターさんが手分けして怪我人の治療をしていました。
 忙しそうに、初老の司祭様がシスターに指示を出していました。

「シスター様、エミリーでございます。皆さまの治療をお手伝いいたします」
「おお、これはエミリー殿下ではありませんか。本当に助かりますぞ」

 司祭様も、本当に助かったと一瞬安堵の表情を見せていました。
 さっそく手分けして、怪我人の治療を始めます。

「ナオ君が重傷者の治療を、エミリーとシアちゃんがその他の怪我人を担当して。私は、炊き出しの準備を進めるわ」
「「はい」」

 ナンシーさんがあれこれ指示を出してくれるので、僕も本当に助かります。
 シスターさんが重傷者を案内してくれるので、良くなるようにと願いながら治療を進めていきます。

「ポーションがたくさん届きました。軽傷者は、これで治療してください」

 屋敷に置いた救援物資の中から、沢山のポーションが届けられました。
 そのおかげで軽傷者を治療しなくて済むので、エミリーさんとシアちゃんも中程度以上の怪我人を治療していきます。
 そして、時間の経過も忘れずに治療すると、教会内に運ばれた重傷者の治療を終えることができました。
 何とか死者を出さないで治療出来たので、僕もホッとしています。

「エミリーさん、教会の前に運ばれた人の治療に行ってきます」
「私もシアちゃんももう少しで中等症患者の治療を終えるから、直ぐに教会前に向かうわ」

 シアちゃんも、触手をふりふりして返答してくれました。
 そして、教会の前に出た時でした。

 バサッ、バサッ、バサッ。

 ドラちゃんが、ヘンリーさんとスラちゃんを乗せて王都から戻ってきました。
 いつの間にか、王都を往復していたみたいですね。
 そして、小さくなったドラちゃんが、僕のところに飛んできました。

「キュー」
「ドラちゃん、お疲れ様。ナンシーさんは炊き出しの仕込みをしていたから、どうするか聞いてみてね」
「キュッ」

 ドラちゃんも、怪我人が多くいる状況を見てやる気を見せています。
 そして、もぐもぐと炊き出しの試食を食べて少し休んでからエミリーさんのところに向かいました。
 ドラちゃんも治療に加わってくれると、本当に助かります。
 というのも、教会前では敷物を敷いて寝かされている怪我人がたくさんいました。
 こうして、僕たちは多く運ばれてくる怪我人をひたすら治療していきました。
 そして、気がついたらお昼をまわっていました。

「みんな、交代で昼食を食べましょう。休める時に休むのも、大切な仕事よ。私たちが無理をして倒れたら、余計迷惑をかけるわ」

 ナンシーさんが、僕たちに声をかけてくれました。
 僕たちは各自で携帯食を持ってきているので、順番に教会内に入って休憩していきます。

「ナンシーさん、思った以上に大変な事になっていますね」
「それでも、みんなのおかげで多くの怪我人の命が助かっているわ。今は、助かる命を助けるのが私たちの使命よ」

 僕と一緒に休憩しているナンシーさんも、袖で汗を拭きながら前を向いていました。
 一番大変なのは被災した人たちなのだからと、僕ももっと頑張ろうと思いました。