そしてある日の朝、遂にイザベルさんの陣痛が始まりました。
 イザベルさんと一緒に寝ていたセードルフちゃんは、出産育児用の部屋に行った母親を不安そうに見つめていました。

「セードルフ、イザベルはこれから赤ちゃんを産む大変なお仕事をするけど、きっと大丈夫だよ。私も屋敷にいるし、今日は一緒にいよう」
「うん……」

 ガイルさんがセードルフちゃんをギュッと抱きしめていたけど、セードルフちゃんは出産がこんなにも大変だなんて思ってもいなかったみたいです。
 僕とスラちゃんは僕の弟の出産の時を知っているからある程度平気だけど、ドラちゃんも初めての出産を体験するのでオドオドしていました。

「セードルフちゃん、お母さんは大丈夫よ。きっと、夕方頃には元気な赤ちゃんが産まれるわよ」
「今日は、私も一緒にいてあげるわ。だから、大丈夫よ」
「キュー」
「うん……」

 レガリアさんとナンシーさん、それにドラちゃんもいるし、何よりもリーフちゃんが張り切っています。
 きっと、これなら大丈夫ですね。
 今日はシンシアさんとエミリーさんと軍の治療施設に行くけど、僕たちも早く帰ってくる予定です。

「きっと、セードルフちゃんは優しい子だから、陣痛が始まって痛みが出たお母さんを見て不安になっちゃったのね」
「アーサーちゃんも、エドガーちゃんが生まれる時に同じ状態になっていましたわ。でも、セードルフちゃんは強い子だからきっと大丈夫よ」

 シンシアさんとエミリーさんも、直ぐに状況を把握してくれました。
 アーサーちゃんも、セードルフちゃんみたいな過去があったなんてビックリです。
 でも、僕もエミリーさんと同じくみんなもついているしそこまで心配していません。
 それに、僕たちは目の前のお仕事を頑張らないとね。
 ということで、僕たちは軍の治療施設についたらさっそく治療を始めました。

「そう、いよいよなのね。元気な赤ちゃんが生まれるのが楽しみだわ」
「楽しみー!」
「しみー!」

 昼食は王城で食べたんだけど、この前プレゼントを持ってきてくれたマリアさん、アーサーちゃん、エドガーちゃんは赤ちゃんに会えるととても楽しみにしていました。
 そして、ヘンリーさんが今後の事について話をしました。

「明日明後日は公務もあるので、冒険者活動は休みだ。きっとオラクル公爵家も出産後でバタバタしているはずだし、ナオ君も屋敷の方を手伝ってあげてね」
「えっと、バタバタっていうのはもしかして赤ちゃんを見に来る人のことですか?」
「ナオ君は、察しが良くて助かるよ。オラクル公爵家は、貴族の中でも最上位クラスだ。その嫡男夫婦に新たな子どもが生まれるとなると、たくさんの貴族がお祝いを持ってくる。きっと、ナンシーも忙しくなるはずだ」

 いつもとても良くしてくれるけど、オラクル公爵家は大貴族だもんね。
 僕もオラクル公爵家のみなさんにはとてもお世話になっているし、できることは頑張ろう。
 こうして、決意も新たに午後の治療を行いました。
 そして、夕方前にオラクル公爵家に帰ると、とてもドタバタしていました。

「ナオ君、おかえり。ちょうど、赤ちゃんが産まれたところだよ」
「えっ、本当ですか!」
「ああ、本当だ。元気な女の子だよ」

 たまたま玄関にいたランディさんが、ニコニコしながら理由を教えてくれました。
 シンシアさんとエミリーさんもまだ馬車に乗っていたので、急いで教えてあげました。

「わあ、とっても小さいね」
「本当に産まれたてなのね」

 僕たちも出産育児用の部屋に入ると、ベッドには出産を終えてひと息ついているイザベルさんと可愛らしい赤ちゃんの姿がありました。
 本当にふにゃふにゃって感じで、とっても可愛いです。
 シンシアさんとエミリーさんは、もう赤ちゃんにデレデレですね。

「なおにーに、ルルちゃんだよ!」
「そうなんだね。セードルフちゃんも、お兄ちゃんになったね」
「うん!」

 朝は不安でいっぱいだったセードルフちゃんも、赤ちゃんが無事に産まれてきて安堵の表情を見せていました。
 ルルティアと名付けられた妹が、可愛くて仕方ないって感じです。
 ドラちゃんの背中に乗っているリーフちゃんは、どうも日中ずっと相手をしていて疲れちゃったみたいですね。
 今日は、ゆっくりと休んでね。

「さて、明日から暫く忙しくなる。私も出来るだけ顔を出すが、ガイルがメインで対応するように」
「父上、分かりました」

 ランディさんはとても忙しいから、ルルちゃんの父親でもあるガイルさんが主に来客の対応をします。
 それでも、二人ともニコニコ顔ですね。
 レガリアさんとナンシーさんたち女性陣は、出産の手伝いで疲れちゃったみたいですけど。
 いずれにせよ、オラクル公爵家に新しい命が産まれました。
 お祝いは、イザベルさんの体調が回復してからやることになりました。