その間に、僕たちは屋敷の使用人から色々と話を聞く事になりました。
 しかし、出てきたのは領主一家への不満ばかりでした。

「横柄な態度を取ることが多く、自分勝手なので屋敷の使用人からも町の人からも嫌われておりました」
「欲が深くて、色々なものに手を出していました。使用人に手を出すこともしょっちゅうでした。ならず者と手を組んで、よくないことをしている噂がありました」
「若奥様は計算などができるので、領内のことを丸投げしていました。更に、生まれたお子様の髪色が奥様と同じだったので、お子様に全く見向きもしませんでした」

 うん、なんというかここまでボロボロの評価だったとは。
 これには、シンシアさんとナンシーさんも呆れるばかりです。
 もしかしたら、嫡男夫人は仕事と育児の両立で疲労したから病気になったのかも。
 ちなみに、赤ちゃんはベビーベッドでスヤスヤと寝ていました。
 更に、嫡男夫人も目を覚ましたみたいです。

「そんな事が起きていたんですね。私の預かり知らないこととはいえ、本当に申し訳ありません」
「先ずは、謝罪を受け取りましょう。あなたは、体を休めることと赤ちゃんの面倒をみることに専念して下さい。間違いなく、赤ちゃんが成人するまで当主代理として動くことになりますので」

 前に行った、ワークス子爵領と同じ考え方になりそうです。
 ともあれ、ベストリア領と同じく実質的に統治している人がいるのはありがたいです。
 そして、昼食前に王都に行った面々が戻ってきました。
 すると、既に色々な話がついていました。

「先ずは領主夫妻と嫡男だが、正式な命令書を持った王族に刃物を向けたので貴族籍を剥奪した上で重犯罪者牢に入れられた。犯罪組織と組して悪さをしていたようなので、本人は結構な厳罰になるだろう」

 反逆罪にも問われる案件になるので、厳しい取り調べが待っているのは必至です。
 そして、更に話は進みます。

「嫡男夫人を、子どもが成人するまでの代理当主とする方向で話が進んでいる。爵位は男爵になるがな。更に、実家から統治を補佐する使用人を選んでくれることになった」
「ヘンリー殿下、何から何まで本当にありがとうございます」
「奇襲みたいなやり方をしたのだ、ある程度は配慮をしないとならない」

 ということで、さっそく明日嫡男夫人はヘンリーさんとともにドラちゃんに乗って王都に向かうそうです。
 もしかしたら王都から使用人を連れてくるかもしれないので、スラちゃんも一緒に行くそうです。
 午後のやることも、だいたい決まりました。

「私とシンシア、ナンシーで屋敷の捜索を行う。エミリーとナオ君は、シアちゃんとドラちゃんと共に教会で治療を行ってくれ。幸にして、食糧事情は良いそうだ」
「治療は任せてください!」
「キュー」

 このナイル子爵領は農業が盛んで、領内も豊かな方だという。
 なんで邪神教に手を出したのかは、本人の取り調べの結果を待たないと駄目ですね。
 ということで、午後はベストリア領と同じく教会で治療をします。
 昼食を食べている間に、教会側と話をしてくれるそうです。
 そして、治療を始めたらびっくりすることが。
 ずらっと、ナイル子爵領の兵が治療に並んでいました。
 あまりにも多いので、僕とドラちゃんが兵の治療を行なってエミリーさんとシアちゃんが一般の人の治療を行います。

「領主が、領兵へのポーション代をくすねているんだよ。だから、慢性的に怪我人が多いんだよ」
「若奥様は、なんとかしようと頑張っていたみたいだったな」
「若奥様が領主代理になるんだったら、俺たちは全力で支えるぞ」

 うーん、何というかこんな事をしていたなんて。
 だから、領主が連行される際に領兵は誰も抵抗しなかったんだ。
 でも、新体制への支持をしてくれているのはとても良いことですね。
 兵から得られた情報を逐一ヘンリーさんたちに報告してもらいながら、僕たちは治療を進めました。
 そして、無事に午後の治療を終えました。
 僕たちは軍の施設に移動して、夕食を食べながら何があったかを報告しました。

「屋敷の使用人にも領主夫妻や嫡男に歯向かったとして、殴られたりしたものがいた。全員、スラちゃんが治療した」
「あと、金品が数多く押収されたわ。どうやら領主夫妻と嫡男は、金品に目が眩んで宝石などのコレクションを増やしていたわ。全部没収で、罰金の支払いや領内の統治対策に使われるわ」

 うーん、何というかよくない領主だったのは間違いないみたいです。
 他にも、掘り下げれば色々出てくるだろうと言っていました。
 この辺はヘンリーさんたちに任せて、僕はできることを頑張ろうと思いました。
 そして、またもや騎士爵持ちって事で良い部屋に泊まることに。
 うう、普通の部屋でいいんだけどなあ。