コンコン。

「失礼します。お嬢様が参られます」

 あっ、ナンシーさんの着替えが終わったんだ。
 自分のお家の中だから、いつまでも冒険者スタイルではないもんね。

 ガチャ。

「お母様、何やら不穏な話が聞こえてきましたが……」
「あらあら、そんな事はないですわよ。可愛い子を見たら、当然の反応ですわ」
「とっても怪しいのですけど……」

 応接室にドレスに着替えたナンシーさんが入ってきて、じとーっとレガリアさんを見ています。
 ナンシーさんはポニーテールにしていた髪を下ろしていて、髪色と同じ鮮やかな赤いドレスを着ています。
 まさに、貴族令嬢って感じでとっても似合っていますね。

「ナンシーさん、ドレスがとっても似合っていますね」
「ふふ、ナオ君ありがとうね」

 ナンシーさんもちょっと頬を赤らめながらも、余裕な感じで僕に返事をしていました。
 そしてナンシーさんは僕の隣に座ったけど、とある事を両親に提案しました。

「お父様、お母様、ナオ君の冒険者服は整えたのですが、その他の寝袋などの活動に必要な物一式を購入するのを失念しておりました。これから御用商会に連絡頂く事は可能でしょうか? あと、ナオ君はこの服以外何も着替えを持っていないので、代わりの服もあった方が良いかと」

 あっ、そっか。
 僕も、色々な事が起きていてすっかり忘れていたよ。
 ショルダーバックにはお金とかしか入れてなかったし、大きなリュックサックは三人に持って行かれちゃったんだ。
 スラちゃんもこの事を忘れてしまったみたいで、僕と同じく「はっ」って表情をしていました。

「確か、明日は近隣の村に行くのだろう? だったら、野営が出来る装備があった方が良いだろう。直ぐに御用商会を呼ぼう」
「服だけでなくて、下着もあった方が良いわね。ナオ君はアイテムボックスを使えるのだから、念の為に食料もあった方が良いわね」
「あの、その……」
「せっかくだから、室内着も買いましょう。リラックスできる服があった方がいいですわね」
「えーっと……」

 オラクル家の皆さんがとっても盛り上がっていて、僕は全く意見を挟めないでいます。
 そして、あっという間に色々な事が決まってしまいました。
 ある意味、決断の早さが貴族らしいのかもしれません。
 既に使用人に指示をしており、御用商会が来るのはもう確実です。
 ここで、僕よりも小さな子が突入してきました。

 トトト、ガチャ。

「おわったー?」
「セーちゃん、急に入ってきちゃ駄目でしょう?」

 オレンジ色の髪の元気いっぱいな男の子が、応接室の扉を開けて入ってきました。
 レガリアさんが注意するけど、男の子の視線は僕とスラちゃんに注がれていました。
 スラちゃんも、男の子に触手をふりふりとしていますね。

「おおー! にーにと、チュライムがいるー!」

 まだ舌足らずなところが可愛いし、僕とスラちゃんを見る目が熱視線に変わりました。
 男の子はトトトとやって来て、ナンシーさんの膝の上にちょこんと乗りました。

「ふふふ、ナオ君、スラちゃん、セードルフちゃんですよ。はい、ご挨拶しましょうね」
「こんちゃ!」

 セードルフちゃんは元気よく手を挙げて、ニコニコしながら挨拶をしています。
 そして、このタイミングでセードルフちゃんの両親も応接室に入ってきました。

「セードルフ、いきなり走って何処に行ったのかと思ったよ。急に走っては駄目だよ」
「そうよ。応接室にいきなり入るのも駄目ですよ」
「はーい、ごめんちゃい」

 セードルフちゃんも、素直に謝っていますね。
 ついでと言うことで、セードルフちゃんのご両親にもご挨拶をする事になりました。

「初めまして、ナオと言います。このスライムはスラちゃんです、宜しくお願いします」
「これはご丁寧に。私はガイル、ナンシーの兄になる。ナンシーを宜しくね」
「私はイザベルよ。ナンシーからナオ君の事は聞いていたのよ。とても可愛らしい男の子ね」
「セードリュフーだよ!」

 ガイルさんはランディさんと同じ茶髪だけど、少し長めにしているんだね。
 イザベルさんは、緑色のセミロングでとっても優しそうです。
 セードルフちゃんは、舌足らずな話し方がとっても可愛いです。
 あと、イザベルさんにちょっとした特徴が。

「もしかして、イザベルさんのお腹に赤ちゃんがいるんですか?」
「ふふ、そうなのよ。あと三ヶ月で出産予定よ」
「おにーちゃんになるー!」

 ドレスの上からでもお腹が目立っているけど、イザベルさんはそんなお腹を優しく撫でていました。
 オラクル公爵家は、本当に明るい話題がいっぱいなんですね。

「おおー、ぷにぷにするー!」

 そして、いつの間にかスラちゃんはセードルフちゃんの膝の上に乗って遊んであげていました。
 触手をふりふりしたりぴょんぴょん跳ねたりと、中々良い感じに動いていていますね。