翌朝、僕、シンシアさん、ナンシーさん、エミリーさんは、ヘンリーさん、スラちゃん、ドラちゃんの見送りを受けながらベストリア伯爵領の領都に向かいます。
 ヘンリーさん、スラちゃん、ドラちゃんはもう少し準備をしてから王都に向かうそうです。
 僕たちは、最初にベストリア伯爵家の屋敷に向かいました。

「皆さま、お待ちしておりました。屋敷に詳しい使用人も、皆さまにお付けします」

 屋敷に着くと、嫡男さんが僕たちを出迎えてくれました。
 シンシアさんは、さっそく兵と使用人とともに捜索の続きを開始します。

「このような事態になり、私も領民に対して大変申し訳なく思っております。ヘンリー殿下と相談しまして、両親が違法行為により捕縛されたと周知しております。本日の奉仕活動には、私の妹も同行いたします。皆さま、どうか宜しくお願いします」
「この度は、両親が大変な迷惑をおかけし申し訳ございません。私も、領民の為に精一杯奉仕させて頂きます」

 嫡男の妹さんは茶髪のロングヘアで、二人が並ぶと美男美女でとっても絵になります。
 しかし、今は両親がしでかした罪の大きさを実感していて、あまり表情は良くないですね。
 そして、妹さんと一緒に教会まで歩いていると、領民から声をかけられた。

「お嬢様はよくやっているよ。いつも、領民を思って奉仕活動に熱心じゃないか」
「そうだよ。兄妹が実際に活動してから、町は良くなったじゃないか」
「俺たちは、二人を応援しているからな」

 なんというか、両親の大罪が周知されているのに領民は二人を支えると言っていた。
 中には、何をしているんだと言っている人もいたけど、ほんの一握りだと言えましょう。
 町の人の温かい言葉に、妹さんは思わず目尻を押さえていた。
 それは、教会に行っても同じ反応だった。

「ご領主夫妻はここ数年は教会の礼拝に顔を出さず、代わりにお嬢様が来られておりました。お嬢様は幼い頃より教会活動に熱心で、治療施設や孤児院への慰問も年に何回も行われておりました」

 教会の司祭様も、嫡男さんと妹さんはとても良い人だと褒めていた。
 もちろん、教会のシスターさんも同じでした。

「うーん、言っちゃ悪いけど、既に領主である両親の影響力は領内に及んでいなかったのね」
「領主と令嬢が有能なだけに、両親の尻拭いをさせるのが不憫だと思っているのね」

 町の人の反応を見て、ナンシーさんとエミリーさんも複雑な表情を見せていました。
 今も、妹さんはシスターさんと一緒に一生懸命炊き出しの仕込みをしていました。
 僕たちも負けないように頑張らないと思い、それぞれ準備を行います。
 ちなみに、無料治療は僕とエミリーさんで行い、ナンシーさんは炊き出しの手伝いをします。

 シュイン、ぴかー。

「これで、腰の痛みも良くなったはずです。どうですか?」
「こりゃすげーな、全く痛くなくなったぞ」

 僕もエミリーさんも、並んでいる人をドンドンと治療していきます。
 いつも一緒にいるスラちゃんとかがいないけど、その分頑張らないと。
 そして、炊き出しの方でも住民が妹さんとナンシーさんに話しかけていました。

「こう言っちゃ悪いが、数年前は領内の状況は本当に悪かったぞ」
「そうだよな。あんちゃんが頑張りだしてから、明らかに良くなったもんな」
「このままお兄さんが領主になった方が、領内は絶対に良くなるわよ」

 ここでも、領主はあまり良くなくて嫡男の方が良かったと言っていますね。
 当の本人は今頃王都に連行されているはずなので、素直に聴取に応じて欲しいです。

 バサッ、バサッ、バサッ。

「「「おおー、カッコいい!」」」

 こうして午前中頑張って奉仕作業をしていると、お昼前に大きなドラちゃんが屋敷の庭に着陸しました。
 実はあとどのくらいで着くかをヘンリーさんがシンシアさんに伝えていたので、領民にドラゴンが来ると周知していました。
 すると、昨日は突然現れたドラゴンに阿鼻叫喚だったけど、今日は子どもを中心に多くの人がベストリア伯爵家の屋敷前に集まっていました。
 ドラちゃんが着陸すると、子どもたちは大歓声です。
 ドラちゃんも、ヘンリーさん達が背中から降りたら子どもたちに手をふりふりしていました。
 この後、王都で何があったかを話すそうなので、奉仕活動も無料治療は一旦終了して僕たちも屋敷に戻ります。