コンコン。

 ビクン!

「失礼します。お館様と奥様が参られます」

 急にドアがノックされたから、ビックリして体がビクンってなっちゃったよ。
 でも、使用人はお館様と奥様って言ったような……
 という事は、もしかして。
 僕は、慌ててスラちゃんを抱いてソファーから立ち上がりました。

 ガチャ。

「おお、待たせてしまったな。楽にすると良い」
「そうですわよ。緊張しなくて良いですわよ」

 応接室のドアが開くと、とても豪華な服とドレスに身を包んだ中年の男女が入ってきました。
 品の良さも凄く感じるので、間違いなくナンシーさんの両親のオラクル公爵夫妻ですね。
 夫妻がソファーについたら、僕は挨拶をしました。

「ぼ、僕はナオです。このスライムはスラちゃんです。あ、あの、ナンシーさんに助けて貰いました。ありがとうございます」
「いやいや、中々礼儀正しいな。聞いていた噂通りだ」
「ええ、そうですわね。まずは、座ってお話しましょう」

 僕は夫妻に勧められてから、頭を上げてソファーに座りました。
 ニコニコしていて、とっても感じの良い人たちですね。

「こちらも自己紹介をしないとならないな。ナンシーの父親のランディだ」
「ナンシーの母親のレガリアですわ。娘と仲良くしてくれているみたいね」

 ランディさんは茶髪を短く刈り上げていてビシッと決めている、とってもダンディな人です。
 レガリアさんはナンシーさんと同じ赤い髪をショートヘアにしているけど、なんというかお胸が凄いことになっています。
 ドレスを、これでもかと持ち上げていました。
 でも、話を聞くとお二人は僕の事を知っているみたいですね。

「あの、ランディ様、レガリア様……」
「おっと、堅苦しいのは避けてくれ。公式の場以外は、様をつけなくていいぞ」
「そうですわね。こんなに可愛くて小さな子に様をつけられると、何だか変な感じだわ」

 この国の偉い人は堅苦しくなく、とっても気軽に接してくれますね。
 ここは、お言葉に甘えましょう。

「ら、ランディさん、レガリアさん、僕の事を知っているんですね」
「ある意味情報収集の一環だ。王都にいる優秀な冒険者の情報を集めていて、どんな人物か、危険性はないかと判断していたのだよ。ナオ君については、パーティメンバーに問題があるから早く引き離さないという判断をしていたのだよ」
「私も娘から話を聞かされていたのだけど、ナオ君の前であれだけどあまり良い人達ではなかったと聞いたわ。無事にナオ君がパーティを抜けて、私もホッとしているのよ」

 流石は上級貴族だけあって、僕だけでなく他の冒険者の情報も知っていたんだ。
 でも、ここでも僕のことを心配してくれて、何だかとってもありがたいなあ。
 そして、ランディさんとレガリアさんは、僕の荷物に気が付きました。

「ナオ君、随分と荷物が少なそうだけど他にはないのか?」
「あの、アイテムボックスを持っていますけど殆ど入っていません。その、荷物を持つための大きい中古のリュックサックがあったんですけど、宿に置いていたら三人に持っていかれました。この服やマントに杖も、冒険者ギルドでシンシアさんやナンシーさん、それに他の女性冒険者の皆さんに買って貰いました。その、お金も要求されて差し出しちゃったので……」
「何ということだ。小さい子にする仕打ちではないぞ。まるで強盗がする事ではないか。しかも、奴隷みたいな扱いもしていたのだな」
「本当に酷い話だわ。娘たちがナオ君を保護して、本当に良かったわ」

 僕に加えてスラちゃんもしゅんとなりながら経緯を説明したけど、ランディさんもレガリアさんもまるで自分の事の様に反応してくれた。
 とても偉い人なのに、とってもありがたいね。

「ナオ君がとんでもない魔法使いだと、私は見ただけで直ぐにわかった。それでいて、とても謙虚な性格だ。このままナオ君を失ったら、まさに国家の損害となるだろう」
「冒険者に限らず、どんな世界にも自信過剰になって傍若無人になる人がいるのよ。ナオ君には全く当てはまらないけど、きっとその三人はそんな性格だったのね」

 僕は従属的な立場だったから威張ることなんてもちろんできなかったし、文句を言うこともできなかった。
 逆に、そんな立場だったから良かったんだろうね。

「そうそう、ナオ君が泊まる部屋は用意させているから、準備ができたら案内させる」
「ふふ、もし寂しくなったら私の部屋に来ても良いのよ。一緒に寝てあげるわ。残念ながら、旦那様も一緒だけどね」
「おいおい、私は邪魔者扱いかね」
「あはは……」

 な、何だかレガリアさんがウインクをしながら凄いことを言ってきたけど、僕は一人で寝れますから大丈夫ですよ。
 レガリアさんから凄い視線の圧力をかけられているけど、大丈夫ですからね。