「だから、なんで大怪我をした俺が捕まるんだ! 捕まえるなら、あいつの方じゃないのか?」

 三人の取り調べは、ようやく本格的に行われるようになった。
 というのも、全員ノックアウトされて気絶したり怪我をしたりして、数日はまともに聴取すら行うことができなかった。
 もちろん、三人が連絡を取らないように隔離している。
 そして、いざ聴取を始めたら、物凄いグダグダが始まってしまった。

「とりあえず、もう一度初めから聞く。お前は釈放された後、なんで襲撃を行ったんだ?」
「襲撃なんてしてねーよ。俺は炊き出しがあるって聞いて行ったら、目の前にナオが現れたからぶん殴りにいっただけだ」
「だから、それが襲撃っていうんだ。お前は、そんなことも分からないのかよ!」
「知らねーよ!」

 取り調べを行う兵も、思わず呆れるレベルの話し方だった。
 恐らく周囲のことなんて全く意識しないで、あの少年を襲ったのだろう。
 それが、どれだけの影響を与えたのか全くわかっていなかった。

「それよりも、二人はどうした。どこにいった」
「お前に教える必要はない」
「はあ?!」

 実は、ツンツン頭と魔法使いはナオの魔法で吹き飛ばされて複数の骨を折る重傷を負っていた。
 更に魔法使いは、近衛騎士によって右手首を切断されている。
 二人ともポーションで治療をしたが、完治するまでの治療はしない。
 ここは重犯罪者用の留置所で、治療施設ではないのだ。
 二人も今日から聴取を始めたが、話すことはこの短髪と全く同じだった。
 何もかもが、「ナオが悪い」「ナオがいたから攻撃した」「周囲のことなんて知らない」だった。
 大事件を起こしたのに、自分ではなくナオに責任をなすりつけていた。
 そして、ナオが自分たちに怪我をさせたから、ナオを捕まえろという主張も変わらなかった。
 兵はこれ以上何を聞いても仕方ないと思い、改めて短髪に自身の罪状を説明した。

「改めて説明する。お前は暴行と大逆罪の容疑がかかっている。意味分かるか?」
「だから、大逆罪って何だよ?」
「お前らは、王家主催の炊き出し現場を襲撃した。更にナオの側には王女殿下がいて、ナオが王女殿下を守っていたんだ」
「王家主催なんて知らねーよ。王女って誰だよ。俺はナオを殴りに行っただけだ!」

 幾ら兵が罪状を懇切丁寧に説明しても、頭に血が上っている短髪が理解することはなかった。
 俺は知らない、ナオを殴りに行ったという主張を繰り返すだけだった。
 あまりのバカさ加減に、兵も頭が痛くなってきた。

「これも言ったな。大逆罪は死刑が適用される大罪だってのも」
「だから、何で俺が死刑になるんだよ! ナオを死刑にしろ! そして、ナオの持っている金を全部寄越せ!」

 短髪は、罪の意識を全く感じていなかった。
 どんなに兵が説明しても、全てナオになすりつけていた。
 これ以上聴取をしても仕方ないと、兵は判断した。
 たとえ拷問したとしても、こいつらの答えが変わることはないだろう。
 しかし、こいつらは大罪を犯している。
 そして、こいつらは知らないだろう。
 裁判まで、連日長時間にわたる聴取が待っている事を。
 しかも、王太后殿下暗殺未遂事件の対応が先になったので、裁判の開始日時が全く分からなくなった事を。
 時間なので別の聴取担当の兵に代わり、また一から質問が始まった。