背の高い太った男の周りには護衛と思わしき兵が三人おり、剣を抜いて構えていた。
 僕たちは近衛騎士を先頭にして執務室の中に入り、ヘンリーさんが睨みを効かせながら男に宣言した。

「ハイラーン伯爵、反逆罪の容疑で捕縛命令が出された。素直に命令に従うのなら、私たちは手荒なことはしない」
「ふ、ふ、ふん! そ、そん、そんな命令、聞けるか!」

 ハイラーン伯爵は、汗をダラダラと垂らして何回もどもりながらもヘンリーさんを指しながら命令を拒否していた。
 どう見ても、ハイラーン伯爵は強がっていますね。
 この瞬間、僕たちも一気に戦闘態勢に入りました。

「抜剣許可!」
「「「はっ」」」

 ガシャガシャガシャ!

 ヘンリーさんの命令で、近衛騎士だけでなくナンシーさんとエミリーさんも剣を抜いて構えました。
 シンシアさんと僕も、杖を構えて魔力を溜め始めます。
 スラちゃんも、僕の頭の上で魔力を溜めています。
 すると、ハイラーン伯爵の護衛が一斉に切りかかってきました。
 ハイラーン伯爵の護衛の狙いは、ヘンリーさんです。

「「「死ねー!」」」

 ガキン、バシッ!

「「せい!」」
「とう、やあ!」
「「「うぎゃー!」」」

 襲ってきた護衛は、近衛騎士とナンシーさんによってあっという間に制圧されました。
 しかも、全員峰打ちで倒しています。
 ナンシーさんも、物凄い剣の技量ですね。
 そして、更に厳しい表情になったヘンリーさんが、顔色が青くなってきたハイラーン伯爵へ最後通告をしました。

「ハイラーン伯爵、これで最後だ。大人しく捕縛されるのなら、身柄の安全は保証しよう」
「ぐぬぬ……」

 ハイラーン伯爵は、青い顔のまま歯ぎしりをして悔しがっています。
 もしかしたら、まさか自分がここまで追い詰められるとは思っていなかったのかもしれません。
 すると、ハイラーン伯爵は胸元から短剣をキラリと抜きました。

 ドドドド。

「くそ、何が投降しろだ。このまま、ただ捕まってたまるか。死ねー! 若造が!」

 ハイラーン伯爵は大きな体を揺らしながらヘンリーさんを目掛けて走り出し、ナイフで突き刺そうとします。
 でも、僕も魔力は十分に溜まっています。

「えーい!」

 シュイーン、バリバリバリ!
 シュイーン、バリバリバリ!
 シュイーン、バリバリバリ!

「ウギャーーー!」

 プスプス、パタリ。

「「あっ……」」

 なんと、僕だけでなくエミリーさんとスラちゃんも雷魔法を同時に放ってしまいました。
 僕は痺れさせて動けなくする程度に威力を抑えていたけど、エミリーさんとスラちゃんは結構本気の電撃だったみたいです。
 トリプル雷魔法をモロに受けて、ハイラーン伯爵の髪の毛はチリチリになり、白目をむいてピクピクと痙攣しています。
 更に、服から焦げ臭い臭いもしています。
 僕もエミリーさんも、もちろんスラちゃんも、やっちゃったって思わず体が固まっちゃいました。
 その時、ある意味救世主が現れました。

 ぴょーん。
 シュイーン、ぴかー!

 エミリーさんの肩にちょこんと乗っていたシアちゃんがぴょーんと倒れているハイラーン伯爵の側に飛び降りて、回復魔法を放ちました。
 ハイラーン伯爵の痙攣が収まるのを見た僕たちは、思わずホッと胸を撫で下ろしました。

「お、お兄様、その、申し訳ありませんでした……」
「僕も、まさかみんなが同時に魔法を放つとは思わなかったので……」

 エミリーさんと僕、それにスラちゃんは、しゅんとしながらヘンリーさんに謝りました。
 ヘンリーさんはちょっと苦笑しながらも、ちょっとやりすぎたと落ち込んでいる僕たちの頭をポンポンと撫でました。

「みんなは、私を守ろうとして魔法を放ったんだ。それに、反逆罪案件だから生死を問わずの捕縛命令が出ていたんだよ。まあ、少しくらい痛い目に合うのは別に良いんじゃないかな」
「それに、捜査指揮をしていたヘンリーを襲ったのだから、自身もそれだけの仕打ちを受けると知って貰わないと。最後通告をするほど、こちらはハイラーン伯爵に配慮したのだからね」

 シンシアさんも何も問題ないと言ってくれて、僕たちは本当に安心しました。
 そして、エミリーさんは素早くハイラーン伯爵を治療したシアちゃんをよくやったと褒めています。
 僕もスラちゃんも、シアちゃんのファインプレーに拍手を送ります。
 シアちゃんも、エミリーさんに撫でられてとっても嬉しそうですね。

「ヘンリー殿下、護送の準備が完了しました」
「では、重犯罪者牢へ運ぶように」
「はっ」

 ヘンリーさんも、素早く近衛騎士と兵に命令します。
 因みにハイラーン伯爵は体が大きいので、足の一部が担架からはみ出しています。
 兵も、ハイラーン伯爵を運ぶのが大変そうです。
 これで無事に制圧完了かと思っていたら、そうは問屋が卸さなかった。