ムーランドの連行が終わったところで、作戦は第二段階に入ります。
 僕たちの前にいつもの馬車が用意され、更に百人を超える兵が集まりました。
 そして、一人の兵がヘンリーさんの前に歩み出て、敬礼をしてから報告を始めました。

「報告いたします。先発隊がハイラーン伯爵家に向かっております。ただ、ある意味予想通りと言いましょうか、門兵と押し問答になっているそうです」
「なら、我々の出番というところだな。全員、ハイラーン伯爵家に向かう。護送の準備も進めるように」
「「「はっ」」」

 ヘンリーさんが近衛騎士と兵に指示を出し、僕たちは馬車に乗り込みました。
 さっきまではシャーロットさんを毒殺しようとした人を許せずに怒っていたけど、時間が経って少し冷静になりました。

「ヘンリーさん、今更なんですけど僕が皆さんと一緒に貴族を捕まえに行っても良いんですか?」
「ナオ君なら全く問題ないよ。ナオ君は我々のパーティの一員として動いているし、指揮権も私にある。私の指示に従ってもらえばいいよ」

 ヘンリーさんだけでなく、シンシアさんたちも僕にニコリとしています。
 ヘンリーさんの指示に従っているというスタンスでいれば、僕は問題なさそうです。
 今日はまだ魔力も残っているし、きっと皆さんのお役に立てるはずです。
 そして、王城を出発して程なくハイラーン伯爵家の屋敷に到着しました。

「国の命である。今直ぐ開門せよ!」
「国の命令がなんだ! ここは通さない!」

 未だに軍の兵がハイラーン伯爵家の門兵と押し問答をしていて、ヘンリーさんだけでなく多くの人が溜息をついちゃいました。
 国の命令よりも主人の命令の方が優先だなんて、何だかおかしいことになっていますね。
 僕たちは門兵に歩み寄り、ヘンリーさんが門兵に命令書を突きつけました。

「ガルフォード王国第二王子、ヘンリーだ。王国の命によりハイラーン伯爵の捕縛に来た。今直ぐ開門しない場合、国家反逆の疑いありとして強制的に押し通す」
「えっ、あっ……」

 ヘンリーさんの勇者様圧力により、頑なに抵抗していた門兵も命令に従うしかなかった。
 青い表情になった門兵が、ようやく門を開けました。
 僕たちを先頭に、半分の兵が屋敷の庭に入ります。

「ハイラーン伯爵の逃走を防止するため、各員は定位置にて待機せよ」
「「「はっ」」」

 ヘンリーさんが残った兵に指示をし、庭にも兵が散らばります。
 僕たちは、近衛騎士の護衛を受けながら屋敷の玄関に向かいました。

 ガチャガチャ。

「くっ、鍵が閉まっている」

 ドンドンドン、ドンドンドン!

「ハイラーン伯爵、今直ぐ玄関を解錠するのだ。繰り返す……」

 近衛騎士が玄関を何度も叩くけど、中からは反応がありません。
 玄関を壊して中に入るかなどの話が行われる中、僕はあるものに目がいきました。

「あっ、隣の部屋の窓が少しだけ空いています。もしかしたら、スラちゃんなら中に侵入できるかも」

 僕の話を聞いたスラちゃんが、任せろと触手をふりふりしながら震えていました。
 ヘンリーさんも頷いたので、早速スラちゃんは窓の隙間から部屋の中に侵入しました。

 ガチャ。

「僅か一分で玄関が開くとは。これは凄いわ」
「流石だな。では、本命を抑えに行くぞ」

 シンシアさんはスラちゃんの早業に驚いていたけど、スラちゃんはこのくらい朝飯前って感じです。
 そして、ヘンリーさんの声にみんなが頷きました。
 屋敷の中に僕たちが入ると、侍従を中心にざわめきが起きていた。
 もしかしたら、僕たちは屋敷に入ることができないと言われていたのかもしれない。
 現に、門兵も僕たちを通させないと必死に抵抗していたもんね。

「ハイラーン伯爵はどこにいる?」
「はっ、はい! し、執務室におります……」

 ヘンリーさんが顔を青ざめている侍従に本命の場所を聞き、僕たちは執務室に向かいました。
 すると、またしても玄関と同じ状態でした。

 ガチャガチャ。

「くっ、また鍵がかかっております」
「こういう対策は流石にしてくるか。さて、どうするか」

 近衛騎士と同様に難しい表情をしたヘンリーさんの姿があったけど、目の前の部屋にハイラーン伯爵がいるのに撤退はありえません。
 ドアを壊しちゃおうという案が採択された時、またもやスラちゃんがドアに張り付きました。
 そして、鍵穴に触手を差し込んで何かをしています。

 カチャカチャ、ガチャ!

「わっ、スラちゃんが鍵を開けちゃった!」

 スラちゃんの鍵開けはとても早く、あっという間にドアの鍵を開けちゃいました。
 スラちゃんはドヤ顔でいるけど、流石に僕もビックリです。

「先ほどの玄関のドア開けといい、スラちゃんは大活躍だな」
「本当に凄いわね」
「後で、ご褒美をあげないとね」
「シアちゃんも、スラちゃんに負けないように強くなろうね」

 みんなが口々にスラちゃんを褒める中、近衛騎士が鍵を開けて部屋の中に入っていきました。

「な、な、何故ドアが開いた!」

 僕たちも部屋の中に入ると、そこには背の高い太った茶髪をオールバックにした男が汗を流し驚愕の表情をしながら立っていました。
 スラちゃんが自ら触手をふりふりしてアピールしても、焦っていて全く気がついていません。