そして、武装完了したエミリーさんとともにナンシーさんも騎士服を着て部屋に入ってきました。
 心なしか、ナンシーさんも怒っていますね。
 僕はというと、侍従に着替えさせられて準備万端です。
 もう一度言います、自分で着替えなくて全部着替えさせられました。
 もの凄く手早く着替えさせられたので、侍従って凄いって感心したほどでした。
 そんな僕たちのことを微笑ましく見ていたヘンリーさんだったけど、近衛騎士が耳打ちしたら表情を一気に引き締めました。
 僕たちも、真剣な表情でヘンリーさんに顔を向けました。

「ハイラーン伯爵、並びに嫡男に対する捕縛命令が出た。容疑は、シャーロット王太后殿下への毒殺未遂だ。大逆罪案件になるので、気を引き締めて行動してほしい」
「「「はい!」」」

 僕たちだけでなく、スラちゃんとシアちゃんもシャーロットさんの膝の上で敬礼ポーズをしています。
 廊下に沢山の近衛騎士と兵が集まっているのが分かり、物々しい雰囲気になってきました。
 スラちゃんとシアちゃんも、ぴょーんと僕とエミリーさんのところにやってきました。

「みんな、怪我だけは本当に気をつけてね」
「無事に帰ってくるのよ」
「頑張って!」
「あー」

 王族の面々に見送られながら、僕たちは王城内を走っていきます。
 ハイラーン伯爵の嫡男はまだ王城内にいるそうで、一部の兵が先回りしているそうです。
 すると、一階玄関前の石畳の敷かれた馬車乗り場で、貴族の子弟と思われる人と兵が押し問答をしていた。

「お待ち下さい。王城より、退出しないで欲しいとの連絡を受けております」
「貴様、どの口で言っている! 私は、ハイラーン伯爵家嫡男のムーランドだぞ!」

 ムーランドというハイラーン伯爵の嫡男は青髪を少し長めにして背も高く、確かに見た目は美形だった。
 でも、美形でも軽薄そうな感じがして、同じ美形でもヘンリーさんとは大違いだった。
 俺様キャラで、僕もあまり良い感じではないって思うよ。
 すると、ムーランドは僕たちの姿、正確にはエミリーさんの姿を見つけて姿勢を正しました。
 因みに、僕はヘンリーさんの後ろにいるので、ムーランドから姿は見えません。

「これはこれは、エミリー姫ではありまけんか。わざわざお見送り頂き、痛み入ります」

 恭しく臣下の礼をするムーランドに対し、エミリーさんは冷たい表情を崩しません。
 ムーランドが勘違いしているのもあってか、シンシアさんたちも厳しい表情を見せています。
 そして、遂にヘンリーさんが近衛騎士と兵に厳しい口調で命令しました。

「大逆罪の容疑で、ハイラーン伯爵家ムーランドを捕縛せよ!」
「「「はっ」」」
「なっ、えっ?」

 ムーランドは突然の事で何が何だか分からなくなり、その隙に近衛騎士と兵が縄で拘束しました。
 一瞬の隙をついたので、殆ど抵抗はありませんでした。
 顔色が青くなってしまったムーランドが、押さえられながらも顔を上げました。

「で、殿下、これはどういう意味でしょうか?」
「ムーランドよ、クリーム、洗濯担当、口拭きハンカチと聞いて分からないはずがないだろう。貴様とグルだった侍従が、全て白状した」
「ぐっ!」

 決定的な証拠を言われ、ムーランドは苦虫を噛み潰したような表情に変わりました。
 本人としては、全くバレないで済んだと思っていたのでしょう。
 すると、兵に押さえつけられていたムーランドが、ヘンリーさんの後ろにいた僕の姿を見つけました。
 その瞬間、ムーランドが顔を豹変させ、まるで化け物のように目をカッと開き、口から泡を飛ばしていました。

「この下民が! 貴様のせいで、全ての計画が狂ったぞ!」
「この、暴れるな!」
「大人しくしろ!」
「更に拘束するぞ!」

 ジタバタと大暴れするムーランドを、近衛騎士と兵が両脇を抱えながら連行していきました。
 何だろうか、あの三人みたいに自分勝手な感じがしていた。

「えーっと、捕まった三人みたいな感じでした。全然怖くなかったです。ムーランドは、僕がシャーロットさんを治療したのを知っていたんですね」
「本当に面倒くさい男なのよ。自分の理想をペラペラと、それこそ何十分も喋るのよ。薄っぺらな大したことのない話だけど、一応付き合いだから笑顔で聞いていたの。本当に苦痛だったわ」
「結局、奴は外面だけ整えていて内面を鍛えてなかったんだ。内面を鍛えてこそ、真の貴族だ。嫡男なら、内面を鍛えるのが当たり前だと思うのだが」

 うわあ、エミリーさんとヘンリーさんがムーランドをズタボロに評価しているよ。
 特に、エミリーさんは積年の恨みを爆発させています。
 もちろん、シンシアさんとナンシーさんも、二人の意見に激しく同意していました。
 因みに、ムーランド付きの者は大人しく連行されていきました。
 主人が捕まったので、観念したみたいです。