部屋の中の鑑定を始める前にマリアさんから近衛騎士と侍従の鑑定をしてと言われたけど、全員とっても良い人でした。
 この結果に、シャーロットさんはホッとしていました。
 ここにいる六人の侍従全員が、苦しい二年間の闘病生活を支えてくれたそうで、シャーロットさんにとって恩人の人たちなんだそうです。

「私にとって、皆は家族みたいなものよ。こんなおばあちゃんに仕えてくれて、本当に感謝しかないわ」
「シャーロット殿下、私たちのことをそこまで思って頂けたなんて……」
「感激で、胸が張り裂けそうです……」

 シャーロットさんが涙ぐむ侍従を、一人ひとり笑顔で抱きしめていました。
 こんなにも優しいシャーロットさんに毒を盛ったなんて、本当に考えられないよ。
 僕とスラちゃんで、手分けしながら鑑定を進めます。

 シュイン、もわーん。

「うーん、化粧品は全く問題ないですね」
「先週の時点で、使用していた全ての化粧品は鑑定に回っております。こちらにあるのは、全て新品となります」

 一番怪しいと思われていた化粧品は問題ないので、どんどんと部屋の中にあるものを鑑定していきます。
 それこそ、服や調度品にベッドの下まで鑑定していきました。

「紅茶もポットもカップも、全然大丈夫ですね」
「こちらも、全て新品に変えております」

 飲み物も安全だというと他に何かあるのかなと思ったら、何とスラちゃんが怪しいものを見つけました。
 それは、これから洗濯する物が入っている部屋の隅に置かれた洗濯かごの中でした。
 全員が集まった中、スラちゃんが一枚のハンカチを触手で持ちました。
 念の為に、僕も鑑定魔法で確認します。

 シュイン、もわーん。

「あっ、僅かですけど毒と表示されました! しかも、鉛毒です!」
「えっ! こ、こちらは、今朝の朝食時に使用した口拭きのハンカチになります」

 侍従の戸惑った声に、全員が驚いてしまいました。
 となると、毒が混ぜられていたのは朝食?
 でも、全員同じ食事を食べていて、鑑定してもマリアさんだけでなく、アーサーちゃんとエドガーちゃんも毒に侵されてはいません。
 ここで、マリアさんがちょっと気になったことを言いました。

「もしかして、お祖母様が使用するハンカチなどに、鉛毒や水銀毒が仕込まれていたのでは?」
「となると、もしかしたらシャーロットさんのお世話をしていた侍従も毒に侵されている可能性がありますね」

 ということで、直ぐに侍従にも再度鑑定で確認しました。
 すると、何と全員が毒に侵されていました。
 まだ魔力に余裕があったので、僕とスラちゃんは直ぐに侍従の解毒を行いました。

 シュイン、ぴかー!

「ふう、これでよしっと。でも、そうしたら使っていないハンカチにも毒が混ざっている可能性がありますね」
「食事は軍の鑑定持ちが全て確認しているから、その可能性は高そうだわ」

 僕とマリアさんの意見が一致し、ちょうど良いタイミングで昼食以降で使用するハンカチが届けられました。
 念の為に洗濯担当の侍従にも残ってもらい、ハンカチの鑑定を進めました。

 シュイン、もわーん。

「あっ、やっぱり口拭きのハンカチに毒が盛られています! スラちゃんの鑑定でも間違いないです」
「えっ!」

 僕の鑑定結果を聞いた洗濯担当の侍従が絶句しているけど、侍従を鑑定しても全く問題ありませんでした。
 でも、毒に侵されていたので僕とスラちゃんは侍従の解毒を行います。
 侍従は何が何だか分からなくて戸惑っていたけど、ふと何かに気がついたみたいです。

「そ、そういえば、王太后殿下の口拭きハンカチについては必ず所定のクリームを使うようにとの申し送りがございました。私は王城にお仕えしてまだ一年ですので、二年前の事は存じておりません」

 この話を聞いた近衛騎士が、毒と判定されたハンカチを金属のトレーに乗せて部屋の外に出ていきました。
 更に部屋に残った近衛騎士が、洗濯担当の侍従で誰が古株かを確認しています。
 そして、またもや部屋から出ていきました。

「直ぐに分かると思うけど、少し残って頂戴ね」
「畏まりました」

 洗濯担当の侍従にも残ってもらい、結果が出るまで少し待つ事になりました。
 ようやく一息ついたので、改めてお茶を貰いました。

「マリアさん、直ぐに怪しいものが分かって凄いです!」
「日頃から、ちょっとでも違和感を感じたら確認するようにしていたのよ。今回は、それが生きたわ。シンシアの魔法は一級品だから、治療漏れがあるとは考え難かったのよ」

 気を張っていたマリアさんも、ホッと胸を撫で下ろしていました。
 まるで、謎を解き明かす探偵さんですね。
 まだ事件は解決していないけど、解決の糸口は見つかりました。
 まだ緊張に包まれていたけど、ちょっとしたハプニングが起きました。

 ぷりぷりぷり。

「ふいー」
「あー! エドちゃんがうんちした!」
「あらあら、赤ちゃんだからしょうがないわね」

 エドちゃんがソファーに捕まりながらふるふるとしていたから、何かあったのかなと思いました。
 これにはみんなもクスクスと笑っていて、直ぐに侍従がおむつ交換をしていました。
 スッキリしたエドちゃんは、もの凄く良い笑顔ですね。
 何だかんだいって、赤ちゃんは癒しです。