シンシアさんとエミリーさんもオラクル公爵家で昼食を食べるそうなので、屋敷の食堂に向かいます。

「あっ、にーにとねーねだ!」
「セードルフちゃん、ただいま。いっぱい食べているかな?」
「うん!」

 リーフちゃんと一緒にいっぱいご飯を食べているセードルフちゃんに声をかけて、僕たちも席に座ります。
 セードルフちゃんにお肉を食べさせているイザベルさんが、僕たちに午後の予定を聞いてきました。

「皆さまは、午後はどうされますか?」
「夕方まで、冒険者ギルドで冒険者の治療を行います。大教会での治療は、午前中で終えましたので」
「それは、冒険者も喜びますわね。どうか、お気をつけて下さい」

 シンシアさんが代表して答えたけど、冒険者にはあの三人までとはいかないけど粗暴な人もいます。
 乱暴なことをされないように、僕も気をつけないといけないね。
 そして、エミリーさんは別のことに興味を持ちました。

「ねえナオ、ナオの部屋はどこにあるの?」
「えっ? ナンシーさんの隣の部屋ですよ」
「よし、じゃあ後で見に行こうかしら?」
「エミリー、駄目よ。独身の女性が、独身の男性の部屋に行くなんて」
「ナオ君がまだ幼いとはいえ、勘違いをする者が出てくるわ」

 エミリーさんのやる気にシンシアさんとナンシーさんも苦笑しているけど、ちゃんと注意するのも忘れません。
 エミリーさんもそこは分かっているので、これ以上は何も言いません。
 ということで、昼食を食べたら少し休んで冒険者ギルドに戻ります。

「じゃあ、行ってくるね」
「いってらっしゃーい!」

 朝と同様に元気いっぱいなセードルフちゃんに見送られて、僕たちを乗せた馬車は屋敷を出発しました。
 そして冒険者ギルドに着くと、冒険者ギルド内が沢山の冒険者で埋め尽くされていました。

「おっ、来たな」
「じゃあ、宜しくな」
「えーっと、もしかしてここにいる冒険者は、みんな治療待ち?」
「おう! と言っても、付き添いも多いがな」

 ニコニコしている厳つい顔の冒険者に、質問をしたナンシーさんだけでなく僕たちも苦笑いです。
 でも、僕たちの治療を待ってくれているのは確かなので、手早く受付を済ませて使っていない部屋を借りました。
 念の為に、近衛騎士もバッチリ護衛についています。
 準備もバッチリなので、早速治療を始めました。

「最近はマシになったけど、まだ動物や魔物が好戦的になっている場所があるぞ」
「それって、どこか分かりますか?」
「おう、直ぐに分かるぞ。他の連中も、情報を持っているはずだ」

 治療をしながら冒険者と話をするけど、冒険者は活動範囲が広いから色々な情報を持っていますね。
 近衛騎士が中心となって、怪しいところを記録していきます。
 元々僕のことを心配してくれた冒険者が多いので、日中は問題なく進みました。
 ところが、夕方になるとその他の冒険者も依頼から戻ってきました。
 その中には、残念ながらガラの悪い冒険者も含まれていました。

「何だ何だ? ガキだけかと思ったら美人もいるぞ!」
「はー、かなりの美人だな。まさに俺にピッタリだな」
「俺の体だけじゃなくて、心も癒してくれよ! ついでに金もくれたら、なおラッキーだな」

 何だろうか、もの凄く軽薄そうなチャラチャラとした冒険者が馬鹿なことを言っています。
 この口ぶりだと、シンシアさんたちがどんな存在の人なのか全くわからないみたいですね。
 近衛騎士の怒りのバロメーターがズゴゴゴゴって上がっていったけど、それ以上に怒りが上がっていた存在がいました。

 しゅっ、バシッ!

「「「グガァ!」」」

 ずささー。

 怒ったスラちゃんが、軽薄そうなチャラチャラした男に思いっきりタックルをくらわせました。
 スラちゃんはこの前の三人との件があるから、こういう良い加減な人が大嫌いなんだよね。
 更にシアちゃんもぴょーんとジャンプしてきて、伸びている軽薄そうなチャラチャラした男の上で触手をペシペシとしています。
 因みに、シアちゃんは回復魔法の他に酸弾が使えるので、実はそこそこの攻撃力を持っています。
 呆気なく撃墜された三人を、僕たちも呆れながら見ていました。

 ガタッ。

「おい、馬鹿なことをした冒険者がいると……騒いだくせして、スライムに負けるレベルなのか?」
「そうなのよ。私たちに下品なナンパをしてきたと思ったら、あっという間に吹き飛ばされたわ」
「スラちゃんが強いってのもあるけど、三人が弱すぎだわ」

 慌てて駆けつけてきたギルドマスターも、エミリーさんとナンシーさんと同じく呆れた表情に変わりました。
 でも、僕たちにお金の要求までしてきたので、三人は駆けつけた兵に連行されて事情を聞かれることになりました。
 僕とあの三人の一件があったので、お金に関するやり取りに注意するようにと周知されたばかりです。
 もしかしたら、安息日に初めて王都にやってきた冒険者なのかもしれないですね。
 一連の対応が落ち着いたところで、シンシアさんが改めてお礼を言いました。

「ギルドマスター、ありがとうございます」
「礼には及ばないぞ。というか、早めに止めないとお前らがコイツラをぶっ飛ばしただろうな」
「まあ、流石にそこまではしませんよ。これ以上何もしなければ、ですがね」

 うわあ、シンシアさんとギルドマスターが黒い笑みを浮かべたまま話をしているよ。
 これには、スラちゃんとシアちゃんも抱き合ってぶるぶると震えていました。
 いずれにせよ、冒険者ギルド内での治療は無事に完了です。

「これくらいだったら、ナオとスラちゃんだけでも十分に対応できるな」
「そうですわね。薬草採取もとても上手なので、きっと戦力になりますわよ」

 更にギルドマスターとシンシアさんの話し合いで、僕とスラちゃんの一人と一匹でできる仕事も決まりました。
 勇者パーティで動くことが大半になると思うけど、何もないときにはこういう依頼も良いかもしれません。
 でも、こうしてみんなが笑顔になる仕事を終えるととても嬉しいですね。