いよいよ、僕が新しい屋敷に引っ越す日になりました。
 荷物はちょくちょくと運んでいたので、今日何か持っていく大きなものはありません。
 全てアイテムボックスにしまっていて、泊まっていた部屋もオラクル公爵家の荷物のみです。
 ベッドとかも綺麗に毛布を畳みます。

「えーっと、念の為にっと」

 シュイン、ぴかー!

 うん、これで部屋の中はピカピカです。
 とってもいい感じに綺麗になって満足していると、リルムさんが「使用人の仕事を取らないで下さい」と苦笑していました。
 念の為に、スラちゃんたちと手分けしてもう一回忘れ物確認をします。

「ナオ君は、本当に丁寧にやるわね。ナンシーに見習わせたいわよ」
「「すごーい!」」

 忘れ物確認をする僕たちを見て、レガリアさんは思わず苦笑していました。
 そういえば、ナンシーさんが新しい屋敷に引っ越す時に部屋が散らかっていて大変だったんだよね。
 セードルフちゃんとルルちゃんも、一緒になって僕たちのことを凄いと言っていました。
 何にせよ、これで出発準備完了です。
 僕たちは、玄関に移動しました。

「ランディさん、レガリアさん、ガイルさん、イザベルさん、本当に長い間お世話になりました。ありがとうございました」
「いやいや、こちらこそ世話になった。ナオ君のお陰で、我が家の名声も上がった。また、いつでも遊びに来てくれ」

 僕は、オラクル公爵家の人々とガッチリと握手をしました。
 思えば、あの三人から冒険者パーティを追放されて、ヘンリーさんたちに拾われてからずっとだったもんね。
 ランディさんが凄く僕のことを褒めているけど、少しでも役に立ったならとても嬉しいです。
 そして、迎えに来てくれたのは新しい僕の屋敷の馬車です。
 想像以上に立派な馬車だったよ。

 ガチャ。

「「わーい」」
「キュー」

 そして、馬車の扉が開くとセードルフちゃん、ルルちゃん、ドラちゃんたちがいの一番で馬車の中に入って行きました。
 間違いなく、僕と一緒に屋敷に行くみたいですね。
 仕方ないねって表情で、イザベルさんも一緒についていくことになりました。

「「「いってきまーす!」」」
「キュー!」
「気をつけて行ってくるのよ」

 僕は、セードルフちゃんとルルちゃんと一緒に敢えて「行ってきます」って言いました。
 やっぱり、さようならはちょっと寂しい気がしたんだよね。
 レガリアさんも、普通に僕たちを見送ってくれました。
 そして、僕たちを乗せた馬車は、あっという間にオラクル公爵家から僕の屋敷に到着しました。
 玄関前に馬車は到着し、僕たちは馬車から降ります。

 ガチャ。

「「「ご主人様、お帰りなさいませ」」」
「「わぁ!」」

 またまた玄関ホールに使用人が集まっていて、一斉に僕に挨拶をしてきました。
 僕だけでなく、セードルフちゃんとルルちゃんも感嘆の声を上げていました。
 やっぱり、凄い光景ですよね。
 でも、イザベルさんだけは平然としていました。

「みんなで応接室に行くわ」
「畏まりました」

 この場を落ち着けるために、僕たちを応接室に行くようにしたんですね。
 そして、集まっていた使用人もそれぞれの場所に向かいました。

「ナオ君も、そのうちに上手く指示ができるようにならないとね。これから、頑張って覚えていきましょう」
「頑張ります……」

 応接室に入ると、イザベルさんが僕にそう言ってきました。
 でも、平民として生まれたから中々慣れないかもしれないね。
 みんなの為に、頑張って覚えないと。

「この後、一緒に追いかけっこしようね」
「しようね」
「キュー!」

 セードルフちゃんとルルちゃんは、お菓子を食べながらドラちゃんたちにこの後の予定を話していました。
 しかし、すかさず待ったをかけた人がいました。

「ふふふ、遊ぶのは一時間勉強してからよ。せっかく勉強部屋もあるのだからね」
「「ええー!?」」

 イザベルさんの隣にいるスラちゃんが、アイテムボックスから勉強道具を取り出していました。
 これには、セードルフちゃんとルルちゃんも思わずガックリです。
 そして、せっかくだということでドラちゃんたちも勉強につきあわされることになりました。
 使用人の案内で勉強部屋に向かうセードルフちゃんたちは、どこか哀愁が漂っていました。

「ナオ君は、今日は執務室か応接室にいた方がいいわね。早速、ご近所になったご挨拶をしてくる人がいるわよ」

 更に、イザベルさんは僕に今後の対応を指示しました。
 うん、まだよく分からないからイザベルさんの指示に従います。
 と、ここで早速お客さんがやってきました。

 ガチャ。

「「きたよー!」」

 やってきたのは、アーサーちゃんとエドガーちゃん、そしてシャーロットさんでした。
 まさか、いきなり王家がお客さんとしてくるとはね。
 すると、アーサーちゃんとエドガーちゃんはキョロキョロと応接室の中を見回していました。

「あれ? みんなはどこかな」
「だれもいなーいよ」

 どうやら、スラちゃんたちも含めて誰もいないのが不思議そうですね。
 でも、何となくこの後のパターンが読めました。
 というのも、イザベルさんとシャーロットさんがひそひそと何か話していたからです。

「ふふ、セードルフちゃんとルルちゃんは、一時間勉強してから遊ぶそうよ。アーサーとエドガーも、勉強部屋に行って勉強してから遊びましょうね」
「「えー!」」

 シャーロットさんの決定を、アーサーちゃんとエドガーちゃんは聞いていないよとびっくりしていました。
 とはいえ二人に拒否権はなく、がっくりとしながら使用人の後をついていきました。

「今日は、一日お客さんが来るはずよ。確かに、ナオ君は下手に色々なところに動かない方がいいわね」

 シャーロットさんも、イザベルさんの意見に同意していました。
 そして、ここから本当に一日中来客が途絶えなかったのです。
 ずーっと挨拶ばっかりで、貴族って大変なんだと改めて実感しました。
 そして、ちびっ子たちは勉強の後は昼食まで庭で元気よく遊んでいました。