その前に、お母さんに頼まれたある魔法をお父さんにかけます。

 シュイン、もわーん。

「うぅ……うぅ……」

 よかった、お父さんに鎮静の魔法をかけたら少し落ち着いてくれました。
 涙を流すのはもうしょうがないとしても、気持ちが落ち着くだけでも違うもんね。
 お母さんも、少し落ち着いたお父さんを見てやれやれって感じです。
 それでも、お父さんとお母さんはとっても仲がいいんだよね。

「それでは、これより二組の家族が新たに生まれることを神に報告します」

 おっと、シスターさんが儀式を始めたよ。
 僕たちも、姿勢を正して祭壇に注目します。

「それでは、サマンサはデイビスを夫とし終生愛する事を誓いますか?」
「誓います」

 夫婦の愛の宣誓を、みんなで真剣に聞きます。
 二組の男女がそれぞれ宣誓を行い、次にお互いに指輪の交換をします。
 四人の指輪は、バンザス伯爵領の領都まで行って作ってもらった特注品だそうです。
 お互いにデザインも決めたもので、とっても気に入っているそうです。
 その指輪が四人の指にはめられて、改めて正面を向きました。

「それでは、誓いの口づけを」
「うぅ……うぅ……」

 結婚式のクライマックスになっても、お父さんは号泣したままでした。
 教会内が静かなのもあって、お父さんの声が良く響きます。
 もう一回鎮静の魔法をかけたんだけど、もう効果はありませんでした。
 サマンサお姉ちゃんも、もうしょうがないわねって表情を見せてから誓いの口づけをしました。

「おお、神よ。ここに誕生した二組の夫婦に祝福を。皆さまも、大きな拍手でお祝い下さい」
「「わー!」」
「キュー」

 教会内にたくさんの人が集まっているのもあり、拍手も物凄い音が聞こえています。
 僕たちも一生懸命拍手を送っているけど、お父さんが誰よりも一生懸命に拍手していました。
 後で、お父さんの手の平に回復魔法をかけてあげないとね。
 周りの人に祝福されながら、二組の夫婦はバージンロードをゆっくりと歩いて行きます。
 サマンサお姉ちゃんも、とっても良い笑顔で周りに手を振っていますね。
 こうして無事に結婚式は終わり、僕たちも教会の外に出ます。
 これから披露宴に移るので、関係者は代官邸に移動します。
 サマンサお姉ちゃんたちは着替えてから代官邸に行くそうなので、エミリーさん、ナンシーさん、リルムさんも着替えの手伝いをすることになりました。
 僕もサマンサお姉ちゃんたちを待つことにして、お母さんたちが先に代官邸に向かいました。

「ナオ、お待たせ」

 程なくして、エミリーさんたちが更衣室から出てきました。
 エミリーさんとナンシーさんも、別の少し落ち着いたドレスに着替えていました。
 サマンサお姉ちゃんたちも、着替えはバッチリ完了です。

「しかし、リルムさんがいてくれて本当に良かったわ。ドレスを保管してあったクローゼットの鍵が破壊されていたのを見た時は、あの三人を引きちぎってやろうと思ったわ」

 サマンサお姉ちゃんだけでなく、他の人たちもリルムさんの事を褒めていました。
 念の為にと裁縫道具一式をマジックバッグに入れていたそうで、それがとっても役に立ちました。
 しかし、鍵を壊してまでウェディングドレスを台無しにするなんて、あの三人の執念はかなり深かったんですね。

「こんな良い人がナオの専属侍従だなんてね。ナオも、リルムさんのことを大事にするのよ」

 サマンサお姉ちゃんだけでなく、他の人からもリルムさんはとても良い人だと褒めていました。
 もちろん僕もリルムさんにとってもお世話になっているし、これからもお世話になるでしょうね。