お昼を過ぎると、炊き出しに並ぶ人の列も短くなってきました。
 僕とエミリーさんも、炊き出しの準備から治療に移りました。
 ずっと頑張っていたちびっこたちも、そろそろお疲れかなと思った、その時でした。

「はい、次の人……えっ?」
「えっ?」

 僕は、目の前に現れた人を見てかなりびっくりしちゃいました。
 目の前に現れた人も、僕のことを見てびっくりしています。

「ナオにーに、どうしたの?」

 すると、びっくりしている僕にセードルフちゃんが不思議そうに話しかけてきました。
 ちょっと眠そうだった他のちびっこたちも、思わずきょとんとしながら僕のことを見ています。
 僕と一緒に座っているエミリーさんも、不思議そうに僕を見ていました。
 というか、僕の周りにいる人たち全員が手を止めて僕に注目しています。

「えーっとね、この前僕の地元の収穫祭で僕のお母さんに挑んだ格闘家がいたって話をしたでしょう? 実は、この人がそうなんだよ」
「「「「おー!」」」」

 ちびっこたちは、僕の目の前にいる人を見て思わず大興奮していました。
 そうです、僕の前にいたのはお母さんと手合わせをして数分間に渡ってお母さんの気合いに耐えた格闘家です。
 地元から帰った時にこんなことがあったと、みんなに話をしていました。
 その人物が、まさに目の前にいるのです。

「はあ……この方が、ナオのお母様の気合いに耐えた人なのね。ナオのお母様はとんでもなく強いのにね」

 エミリーさんも、驚きというかびっくりというか、何とも言えない表情をしていました。
 でも、治療に来たということはどこか怪我をしているのかもしれません。

「あの、怪我をされたのですか?」
「日々のトレーニングで、関節を痛めたのかもしれぬ。毎年年末年始は王都に来ていて、それで奉仕活動が行われているのを思い出したのだよ」

 治療をしながら話を聞くと、どうもお母さんに負けてから更に厳しいトレーニングを積んでいたみたいです。
 でも、トレーニングのやり過ぎは駄目ですよ。
 現に、関節だけでなく筋肉も痛めていました。

「これで良くなりました。程々にトレーニング……」
「「「「おはなししてー!」」」」

 僕が治療を終えるのを待っていたのか、ちびっこたちがキラキラした目で格闘家を見ていました。
 既に僕のお母さんと手合わせした時に良い人だと分かっていたけど、ちびっこたちにも良い人に指定されたみたいですね。
 でも、流石にちびっこたちだけで格闘家とお話はできません。
 マリアさんや、護衛の近衛騎士と共にお話することになりました。

「ああいう人って、人生経験が深いからとても楽しい話をしてくれるのよ。私も、一緒に話を聞いてみるわ」

 シャーロットさんも、格闘家に興味を持ったみたいです。
 ニコニコしながら、専属侍従と共にちびっこたちのところに向かいました。

「えーっとね……」
「「「「おー!」」」」

 大教会の中からちびっこたちの楽しそうな声が聞こえる中、奉仕活動は続いて行きました。
 そして、もうそろそろ奉仕活動が終わるというタイミングで、格闘家がよく分からないという表情をしながら大教会の中から出てきました。

「よく分からないが、年明けに軍の兵に稽古をつけてくれと言われてしまった。しかも、王家からの指名依頼になるらしい……」

 格闘家はまだ理解できていないけど、お母さんに負けたとはいえかなり強いのは間違いないもんね。
 シャーロットさんも大教会の中から出てきて、理由を教えてくれました。

「普通に強いと思うし、何よりも経験が凄いわ。王国軍を強くする上でも、きっと役立つはずよ」

 格闘家の今までの経験を、シャーロットさんも太鼓判を押していました。
 先ずは試しにということになったそうです。
 あと、後からちびっ子たちが凄い人だと知ってびっくりしたそうです。
 因みに、ちびっ子たちは各地の色々な話を聞く事ができて大満足だったそうです。