コンコン。

「はい、どうぞ」

 ガチャ。

 お互いに話が進んだところで、部屋のドアがノックされた。
 部屋の主であるシャーロットさんが返事をすると、ドアの隙間からナンシーさんが顔を覗かせた。
 何かあったのかな?

「ナオ君、ここにいたのね。そろそろ帰るわよ」
「えー」
「ぶー」

 僕ではなく、小さな兄弟が真っ先に否定の返事をしています。
 二人のとても可愛らしい抗議だけど、流石に王城にお泊まりはできません。
 名残惜しいけど、今日はこれでおしまいです。

「ほら、炊き出しの時に会えるでしょう? 明後日なんて、直ぐに来るわよ」
「「うー」」

 ふふ、苦笑しているマリアさんに頭を撫でられながら慰められても未だにほっぺを膨らませながら不貞腐れているけど、二人はそんなところも可愛いですね。
 僕は、椅子から立ち上がりました。

「じゃあ、明後日会おうね。皆さん、さようなら」
「ナオ君、また会いましょう」
「気をつけて帰ってね」
「じゃーね」
「あー」

 無事にアーサーちゃんとエドガーちゃんともバイバイできて、僕はナンシーさんと一緒に王城内を歩いていきます。
 すると、ナンシーさんが僕とスラちゃんに注意してきました。

「ナオ君、スラちゃんも治療で無理はしないようにね。解決方法が見つかってある程度治療できれば、他の治癒師でも治療はできたわ」
「ごめんなさい……」
「流石に魔力切れ寸前で倒れた時は、私も含めて他の人達も焦ったわ。ナオ君が優しいから全力で治療したくなるのは分かるけど、自分の実力を把握するのも大切なことよ」

 僕もスラちゃんも限界まで魔法を使った事がないから、どこまで魔法が放てるか分からなかったのもありそうです。
 スラちゃんもしゅんとなっちゃったけど、これからは十分に気をつけよう。
 そして王城の玄関に着いて馬車に乗り込んだけど、何故かランディさんの姿がなかった。

「お父様は仕事が終わらないそうなので、別の馬車がうちから向かったわ。よくある事だから、気にしなくていいわよ」

 僕とスラちゃんが不思議そうにしていると、直ぐにナンシーさんが理由を教えてくれました。
 つい先日もランディさんの帰りが遅かったし、お仕事が大変なんですね。
 そんなことを思っているうちに、あっという間に王城からオラクル公爵家に到着しました。

 とととと、ぽすっ。

「にーに、おかえりー」
「わっと。セードルフちゃん、ただいま」
「えへへ。ねーねもおかえりー」
「セードルフちゃんは、本当にナオ君が好きね」

 玄関に入ると、直ぐにセードルフちゃんが抱きついてきました。
 にこーってしてくるのが、本当に可愛いですね。
 そのままセードルフちゃんとナンシーさんと一緒にお風呂に入り、食堂に向かいました。
 すると、仕事帰りのランディさんの姿も食堂にありました。

「おお、ナオ君体調は大丈夫かね?」
「お昼寝したら、大丈夫よくなりました」
「そうか、それは良かった。シャーロット殿下への治療をして倒れたと聞いた時は、私もかなり焦った」

 ランディさんにも心配をかけちゃったんだ。
 今回の無理な治療は、本当に反省だね。
 でも、シャーロットさんが元気になってホッとしてるのは、ランディさんも同じでした。

「ナオ君のお陰で、シャーロット殿下を苦しめてきた原因が分かった。ナオ君とスラちゃんの、一人と一匹が全力で治療しないと駄目なレベルだ。そりゃ、宮廷医とて治療できるはずがない。犯人を探すのは時間がかかりそうだけど、必ず我々が見つけ出すよ」

 ランディさんが力強く宣言したけど、悪い事をするのはやっぱり駄目よね。
 シャーロットさんは優しくてとってもいい人だし、そんな人を二年間も苦しませるのはいけないことです。
 犯人を早く捕まえて欲しいです。
 そして、夕食を食べていたのですが、ちょっとした問題が発生しました。

 こっくり、こっくり。

「ナオ君、随分と眠そうだけど大丈夫かしら?」
「あの、その、かなり、眠いです……」
「まだ魔力が完全に回復していないし、お腹もいっぱいになって眠くなっちゃったのね」

 ナンシーさんはこっくりと船を漕ぐ僕を見て、少し苦笑していました。
 でも、僕だけでなくスラちゃんも眠気が限界です。
 ちょうど夕食も食べ終えたので、そのまま部屋に戻って寝ることにしました。

「お、お休みなさい……」

 ふらふら、ふらー。

「ああ、流石にこのままほっとけないわ。私もついていくよ」

 席を立ってふらふらと歩く僕とふにゃふにゃのスラちゃんを見て、ナンシーさんが慌てて一緒に着いてきました。
 ナンシーさんに背中を支えられて何とか部屋にたどり着いてベッドに入ると、もう眠気が限界でした。

「すー、すー」
「あらら、もう寝ちゃったわ。今日は、とっても頑張ったもんね」

 あっという間に寝ちゃった僕とスラちゃんを見て、ナンシーさんは布団をかけ直しながら苦笑していました。
 そして僕の頭をひと撫でしてから、ナンシーさんは部屋を出ていきました。