謁見の後も、僕たちは忙しく動いていました。
 スラちゃん達が犯罪組織の拠点に潜入して情報を集め、一気に拠点を制圧したりしていました。
 更に、旧オオボス侯爵の末息子を爵位継承の儀で王都に行くために、大きくなったドラちゃんに乗って旧オオボス侯爵領に向かったりしていました。
 そんな中、今日は軍と僕たちでとある貴族の屋敷へ強制捜査を行います。
 この前の謁見で、僕の爵位が上がらずに喜んでいた貴族の屋敷です。
 この貴族当主の捕縛が完了すれば、当面の騒動も落ち着きそうです。

「本日向かう貴族家は、違法薬物を扱う犯罪組織と手を組んでいた事が判明している。犯罪組織は昨日制圧したので、残りはこの貴族家のみとなる。気を引き締めて任務に当たるように」
「「「はっ」」」

 軍の兵にヘンリーさんが訓示を行ったけど、全員気合が入っていますね。
 兵もここのところかなり忙しく動いていたので、もうひと踏ん張りですね。
 因みに対象の貴族家の屋敷を周囲を兵が監視しているので、貴族が逃げだす事は実質的に不可能です。
 毎日ドラちゃんに乗ったスラちゃんが貴族家に潜入していて、今朝も貴族当主がいる事を確認しています。
 ではでは、馬車に乗って早速目的の貴族家に向かいましょう。

 ガチャガチャ、ガチャ。

「「「はっ?」」」

 屋敷に着いたらスラちゃんが触手を使って手早く門の鍵を開けて、更に玄関の鍵も開けます。
 屋敷の警備は、難なく鍵をあけるスライムを見てよく分からないという表情をしていました。
 屋敷の入り口で時間をかけたくないので、ここはヘンリーさんの指示でササっと通過していきます。
 屋敷の周囲を兵が取り囲み、僕たちもズンズンと屋敷の中に入って行きました。
 探索魔法を使って周囲の確認をしつつ、僕たちは目的である貴族当主のいる執務室に向かいました。

 ガチャガチャ、ガチャ。
 ギギギ……

「「なっ……」」

 執務室も鍵が掛かっていたので、スラちゃんがサクッと鍵を開けました。
 中には豪華な服を着た中年夫婦と思われる者と若い女性の使用人がいて、中年夫婦は執務室に入ってきた僕たちを見て度肝を抜かれた表情をしていた。
 中年夫婦にお茶を出していた若い使用人はというと、少し戸惑った表情で僕たちの事を見ていた。
 そんな中、ヘンリーさんが僕たちの前に一歩出ました。

 ザッ。

「デオチ子爵夫婦、違法薬物違反で逮捕状が出ている。抵抗しなければ、私たちも手荒な事はしない」
「「ぐっ……」」

 中年夫婦は、ヘンリーさんに突きつけられた逮捕状を見てかなり狼狽していた。
 素直に従うつもりは絶対ないなと思ったけど、案の定貴族当主が愚かな行動に出た。

「ぐっ、くそ!」

 ガシッ。

「きゃあ!」
「俺たちを見逃せ! じゃないと、こいつを殺すぞ!」
「「「はぁ……」」」

 何というか、古典的な脅迫方法ですね。
 中年男性の取った行動に、僕たちは一斉に溜息をついてしまいました。
 そして、エミリーさんがボソッと一言呟きました。

「あっ、外で子爵の息子が変な踊りをしている」
「「「えっ?」」」

 貴族夫婦と刃物を突きつけられている使用人が、はてなって表情をしながら外を振り向きました。
 もちろん嘘だと思ったら、衝撃の光景があったのです。

「えへへ……」
「シャキッと歩け!」
「駄目だこりゃ、話が通じないぞ」

 何と、本当に貴族の息子と思われる青年が、へらへらと口から涎を垂らしながら兵に連行されていたのです。
 手足ががくがくとしているので、本当に変な踊りをしているみたいでした。
 エミリーさんは適当に話したつもりだったのに本当になっちゃったので、思わず指をビシッと貴族夫婦に指したまま固まっちゃいました。

 ドン!

「きゃあ」
「「おーい、おーい!」」

 貴族当主は思わず刃物を突きつけていた使用人を突き飛ばし、貴族夫人と共に窓の方に移動しました。
 そして、信じられないという表情で窓の外をかじりつくように見ていました。
 うん、茶番劇はここまでで良いでしょうね。

「えー、デオチ子爵夫婦を拘束するように。使用人には聴取を行おう」
「「「はっ」」」
「「ぼっちゃーん!」」

 ヘンリーさんも思わず苦笑しながら、兵に貴族夫婦の拘束を命じました。
 貴族夫婦は連行される息子を見て号泣していて、兵が拘束しても号泣していたままでした。