そして、マリアさんが僕に話しかけてきたけど、エドガーちゃんが静かだなと思っていたら、お腹いっぱいになってマリアさんに抱かれてスヤスヤと眠っていました。

「ナオ君はとても丁寧な話し方をするけど、誰かに教わったのかしら?」
「お母さんに教わりました。お父さんとお母さんはペアで冒険者を組んでいたんですけど、その、お父さんの話し方は駄目だと言われまして……」
「ふふ、そんな事があったのね。でも、お母様の教育は間違ってはなかったのね」

 お父さんは今でも冒険者をしているけど、昔に比べると大分言葉使いが良くなったんだって。
 お母さんは普段は優しいのに怒ると物凄く怖いから、兄弟全員いい勉強になったっけ。
 すると、今度はアーサーちゃんが眠くなったみたいです。
 さっきから言葉少なくなって、しきりに目を擦っています。

「アーサー、眠いのか?」
「うん……」
「午前中はいっぱい頑張ったからな。ほら、お父さんのところに来なさい」
「うん……」

 アーサーちゃんもエドガーちゃんも、午前中は沢山動いたから疲れちゃったね。
 アーサーちゃんもジョージさんに抱っこされると、直ぐに胸に顔をうずめて眠り始めました。
 昼食もこれで終わりなんだけど、今度はヘンリーさんが話し始めた。

「ナオ君、明日明後日は兄上と共に父上の仕事を手伝うのが前々から決まっていたんだ。明日は、シンシア、ナンシー、エミリーと一緒に活動してくれ。教会の治療施設で治療をする事になっている」
「明後日も、ナオ君には一緒にいてもらった方が良いわね。明日行く教会前で、炊き出しをするのよ。無料治療もする予定だから、ナオ君とスラちゃんがいるととても助かるわ」
「両方とも参加します。治療なら任せて下さい」
「うんうん、良いお返事ね。明後日の炊き出しには、お義母様とお義姉様も参加するわ」

 ヘンリーさんは王子様だから、お仕事も忙しいんですね。
 二日間の日程も決まったし、僕もスラちゃんも治療を頑張らないとね。
 あと、今日の午後の予定は何があるんだろう?

「ナンシーさん、午後の予定はありますか?」
「うーん、どうしようか。顔合わせは終わったんだよね」

 あら、ナンシーさんも悩んじゃったよ。
 となると、オラクル公爵家に戻るのかな?
 そんな事を思っていたら、陛下が少し考えてから僕に話しかけてきた。

「それなら、余からナオに冒険者として依頼を出そう。余の母上の治療して欲しいのだ」
「陛下のお母様、ですか?」
「ここ二年調子が良くない。宮廷医に診せているのだが、鑑定では毒と出ているが何の毒か分からないそうだ。毒消しポーションも効果がなかった」

 陛下の表情が曇っちゃったけど、お母さんの調子が悪ければとっても心配するよね。
 頑張って治療しよう!

「陛下、僕がどこまでできるか分からないけど、頑張って治療します!」
「ナオ、治せる範囲で良いぞ」

 こうして、午後の予定も決まりました。
 まだまだ魔力はあるし、頑張ろう。
 大食堂から先程の部屋のあるところに行って、そのうちの一室に向かいます。
 ちなみに王族は全員少し時間があるので、そのまま一緒に行きます。

 コンコン。

「はい、どうぞ」

 部屋の中から女性の声がしたので、全員で部屋の中に入ります。
 すると、茶髪に白髪の混じった年配の女性がベッドから僕たちを出迎えました。
 小柄で痩せているけど、とても優しそうな女性です。

「あらあら、みんな揃ってどうしたの?」
「ヘンリーのパーティに新しい男の子が入ったので、紹介しにきました」
「その白銀の髪の子かしら。可愛らしいから、女の子かと思ったわ」

 陛下が僕を紹介すると、女性は口に手を当てて朗らかに笑っていた。
 でも、ニコリとしているけど顔色はあまり良くなさそうです。

「えっと、初めまして。僕はナオです。このスライムは、スラちゃんです」
「ご丁寧にありがとうね。私はシャーロット、見ての通りおばあちゃんよ」

 僕とスラちゃんがペコリとしながら挨拶をすると、シャーロットさんもニコリとしながら挨拶をしてくれました。
 すると、マリアさんが午前中の事を説明してくれました。

「おばあ様、ナオ君とスラちゃんは午前中軍の病院の大部屋に入院していたもの全てを治療した治癒師です」
「あら、それは凄いわね。一部屋には十人以上入院しているはずよね」
「その、ナオ君とスラちゃんは四つある大部屋全てに入院していた怪我人を治療しました」
「まあ!」

 シャーロットさんは、僕とスラちゃんが治療した範囲を聞いてとっても驚いていた。
 そして僕とスラちゃんは、シャーロットさんが寝ているベッドに近づきました。

「シャーロットさん、これから治療をしますね」
「ええ、どうぞ」

 僕は、シャーロットさんに軽く魔力を流しました。
 すると、全身から悪いものを感じました。
 スラちゃんが確かめても、全く同じ結果です。
 うーん、予想以上に体調が悪そうだ。
 あっ、許可を取ってあれを試してみよう。

「シャーロットさん、その、確認をしたいので鑑定魔法を使っても良いですか?」
「ええ、良いわよ。隠すことなんて、全く無いわ」

 僕は、シャーロットさんの許可を取って鑑定魔法を使いました。
 全身がこれほど悪いのは、何か原因がありそうです。

 シュイーン、ぴかー。

 すると、鑑定結果にとある中毒と表示されました。
 念の為にスラちゃんが鑑定魔法を使っても、僕と全く同じ結果でした。

「陛下、シャーロットさんは鉛中毒と水銀中毒と出てきました」
「「なっ!」」

 僕とスラちゃんの鑑定結果を告げると、陛下はもちろん王妃様もかなり驚いた表情になりました。
 でも、二人とも何か心当たりがあるみたいです。

「昔、化粧品に鉛や水銀を使ったものが使われていて、健康被害が出て大問題になったのよ。だから、相当前に使用禁止になったの」

 王妃様が心当たりがある事を教えてくれたけど、昔にそんな事が起きていたんですね。
 まずは、解毒魔法を使った方が良さそうです。
 ここは、スラちゃんと協力して行いましょう。

「スラちゃんは回復魔法系の解毒魔法で、僕が聖魔法の解毒魔法を使うよ」

 スラちゃんも了解と触手を上げたので、僕たちは魔力を溜め始めました。
 今回は、全力で解毒魔法を使います。

 シュイン、シュイン、シュイン、ぴかー!

 僕とスラちゃんが同時に解毒魔法を使ったので、シャーロットさんの周りに沢山の魔法陣が現れて光り輝きました。
 中々中毒症状が強かったけど、頑張って魔力を決めると段々と治っていく手応えがありました。
 そして、魔力が空っぽになる寸前で、シャーロットさんの解毒が完了しました。
 スラちゃんも、魔力が底をつきそうです。

「はあはあはあ、な、何とか解毒できました。でも、僕もスラちゃんも、魔力が空っぽです……」
「ナオ、スラちゃん、大丈夫?」

 汗だくになりながら治療結果を伝えると、エミリーさんが僕の体を支えてくれました。
 スラちゃんも疲れて、へんにゃりとしています。
 でも、治療効果は抜群でした。

「まあ、凄いわ。体がとても軽いの。今までの苦しみが、嘘のようだわ。ナオ君、スラちゃん、本当にありがとうね」

 ベッドサイドでヘロヘロになっている僕とスラちゃんの事を、シャーロットさんがニコリとしながら撫でてくれました。
 顔色もとても良くなっていて、調子は良さそうですね。
 あっ、でももう駄目っぽいです。
 ひょい。
 すると、ヘンリーさんが僕の事をお姫様抱っこしました。
 スラちゃんは、シンシアさんが抱いていました。

「ナオ君、少し休みな。魔力を沢山使ったのだから」
「ここまで分かれば、後は私たちが原因を突き止めるわ」

 ヘンリーさんとシンシアさんがニコリとしたのを見たら、僕は意識を失ってしまいました。
 でも、シャーロットさんの治療が上手くいって本当に良かった。