翌朝、僕たちが王城に行くとヘンリーさんから意外な指示を貰うことになりました。

「今日は、エミリーとナオ君は王都内の貴族家の捜索に入ってくれ。オオボス侯爵領は思った以上に落ち着いているし、今のうちに王都内の獅子身中の虫を捕まえるようにする」
「「はい!」」

 おお、これは特別な任務ですよ。
 僕だけでなく、エミリーさんもとても張り切っています。
 僕たちのところにはクロちゃんとシアちゃんも残るみたいだし、何かあっても良いように近衛騎士も護衛に着くそうです。
 ということで、大きくなったドラちゃんに乗ってオオボス侯爵領に向かう皆を見送って、それからエミリーさんと一緒に馬車に乗り込みました。

「えーっと、先ずはある子爵家に行くことになっているわね。この当主は、何かしているのではと前から噂されていたのよ」

 馬車内で通信用魔導具を操作しながらエミリーさんが淡々と話してくれたけど、今日はノルマとして二家の捜査を行うことになっています。
 不在のヘンリーさん達が安心するように、今日は一生懸命頑張らないとね。
 そして、程なくして目的の子爵家に到着したのだけど、少し予想外の事が起きていました。

 もわーん。

「アンアン!」
「何で、屋敷によどみが集まっているのでしょうか……」
「流石に、私でも分からないわね。碌でもないことになっているのは間違いなさそうね」

 何と、目的の子爵家の屋敷からよどみが出ていたのです。
 急いで使用人が屋敷の中から避難してきているけど、一刻も早く浄化をしないといけません。
 このくらいなら僕だけでも十分浄化できるんだけど、避難してきた使用人が気になることを教えてくれました。

「その、お館様が謎の杯をどこからか持ってきました。すると、突然屋敷の中によどみが発生しまして……」

 つまり、子爵が暗黒杯を発動させようとしているんだね。
 それなら、まとめて僕が浄化しちゃいましょう。

 シュイン、シュイン、ぴかー。

「うがー!」

 僕が屋敷に向けて浄化魔法を放つと、何故か屋敷の中から中年男性の叫び声が聞こえてきました。
 エミリーさんもシアちゃんも特に気にする素振りはないけど、使用人の何人かがお館様って言っていたからきっと子爵が何かをしようとしていたんだね。

「エミリーさん、無事に浄化が終わりました。魔獣化したものを浄化した手応えがありましたけど、多分子爵が何かしようとしたのだと思います」
「はあ、何となくやりたい事が分かったわ。とりあえず、執務室に向かいましょう」

 僕の声を聞いたエミリーさんは思わず呆れた声を出していたけど、先ずは子爵がいるだろう執務室に向かうことにしました。
 使用人も恐る恐る着いてきたけど、執務室に入ったら案の定の光景が広がっていました。

「うがが……」
「はあ、やっぱりね。穢れた血を飲んで、私たちに対抗しようとしたのね。そんなことをしても無駄だって、何故分からないのかしら」

 執務室の床には、ガリガリに痩せ細って白髪になった男性が呻き声をあげていました。
 使用人は変わり果てた子爵の姿を見て顔を真っ青にしているけど、僕たちは何回も遭遇しているのである意味慣れっこです。
 直ぐにシアちゃんがしおしおになった男性に軽く回復魔法をかけた後、兵が拘束して連行していきました。

 カチャカチャカチャ。

「アンアン」
「えーっと、これがオオボス子爵とのやり取りを示す書類ね。その他にも、複数の犯罪組織との繋がりを示す書類が出てきたわね」

 僕がテーブルの上に置かれていた暗黒杯から魔石を取り外している間、クロちゃんとシアちゃんが執務室の中から大量の書類を発見していました。
 エミリーさんはかなり呆れながら書類を手にしていたけど、追加の罪状がたくさん見つかっちゃいました。
 エミリーさんが通信用魔導具で各所に連絡し、屋敷の他の部屋や倉庫も捜索し大体一時間くらいで最初の場所の強制捜査が完了しました。
 少し休憩してから、次の目的地に向かいます。

「次は、伯爵家ね。当主よりも夫人の方に問題があるらしいわ。少し珍しいパターンね」

 馬車内で再びエミリーさんが色々と確認していたけど、確かに当主ではなく夫人が邪神教に関わっているケースは珍しいです。
 そして、伯爵家に到着したらまたもや子爵家と同じ事が起きてしまいました。

 もわーん。

「「「キャー!」」」

 屋敷からよどみが溢れ出ていて、使用人が一斉に屋敷から避難していました。
 もしかしなくても、伯爵夫人が暗黒杯を発動させたんだ。
 うーん、もしかして今日はこんなケースが多いのかな。
 そんな事を思いながら、僕は魔力を溜め始めました。

 シュイン、ぴかー。

「ギャーーー!」

 屋敷の中から女性の叫び声が聞こえたけど、僕は特に気にする事なく浄化魔法を放ち続けました。
 そして、程なくしてよどみの浄化が終わったので、使用人も連れて執務室に向かいました。
 こちらでも、奥様が謎の杯を持ってきたという使用人からの証言がありました。
 しかし、状況は子爵家よりもよくありませんでした。

「あばば……」
「うぅ……」

 ガリガリに痩せて白髪になった女性の傍に、お腹を刺されて呻き声をあげている痩せている中年男性がいました。
 シアちゃんは直ぐに中年男性を治療したけど、出血量も多く結構重傷です。
 ちなみに、ガリガリになって痩せた女性を見て、使用人が奥様と声をかけていました。
 間違いなく、この女性が伯爵夫人ですね。