「ナオ君、悪いけどちょっと待っていてね」
「まっててねー」
「あー」

 部屋の前に着くと、マリアさんはアーサーちゃんとエドガーちゃんを連れて部屋の中に入りました。
 エドガーちゃんはおむつを替えないと駄目だし、アーサーちゃんも着替えをするのかも。
 廊下に椅子があるので座って待っていたら、廊下の奥から見知った人がヘロヘロな状態で現れた。
 ツインテールにしていた金髪を下ろしていて淡いピンク色のドレスを着ていて、表情がどよーんとしているけど間違いなくエミリーさんです。

「え、エミリーさん、大丈夫ですか? だいぶ疲れていますよ」
「だ、大丈夫じゃない……」

 エミリーさんは、確か今日は礼儀作法の勉強をするって聞いていたよ。
 王家の礼儀作法の勉強って、エミリーさんが疲れちゃうほど大変なんだ。
 いつもだったら元気補充で僕に抱きついてくるのかなと思ったけど、今のエミリーさんにはそんな余裕はないみたいです。
 着替えをするのか、エミリーさんも部屋に入っていきました。
 そういえば、僕が朝ここに来た時には既にエミリーさんの姿は無かった。
 本当に大変なんだなと思いつつ、僕とスラちゃんはエミリーさんの入った部屋を眺めながら椅子に座って待っています。

「エミリーは、もう少し頑張っても良さそうだがのう。余が幼い頃は、一日十時間も礼儀作法の勉強をしておったぞ」
「でも、エミリーさんは頑張り屋さんなので集中し過ぎちゃったのかもしれないです」
「ふふ、エミリーのことを良く分かっていますわね」

 あれ?
 ほんの少し前まで、この廊下には護衛任務の近衛騎士とお世話の侍従しかいなかったはず。
 しかも、僕のすぐ隣で男性と女性の声がしたような。
 僕とスラちゃんは、恐る恐る声がした方を向きました。
 そこには、中年の男女がニコリとしながら立っていました。
 しかも、ただの中年の男女ではありません。
 男性は、背が高くて中年なのに渋くて良い顔です。
 何よりも王族の皆さんと同じミディアムの金髪だし、白地に金の刺繍がされている豪華な服を着ています。
 女性も背が高くて、濃い紫色のロングヘアです。
 青色で沢山の刺繍がほどこされたドレスを身に着けていて、大きな宝石が付いているネックレスを首から下げています。
 あと、とてもお胸が大きいです。
 この二人って、もしかして……
 僕は、反射的に椅子から立ち上がりました。

「あの、つかぬことをお聞きしますが、もしかしてヘンリーさんとエミリーさんのご両親ですか?」
「うむ、そうだ。余は、シーザーだ」
「私はヴィクトリアよ。本当に可愛らしい男の子ね」

 はわわわ……
 国王陛下と王妃様です!
 お二人は、この国で一番偉い人じゃないですか。
 全く気づかずに、普通に何気なくお話しちゃいました。
 あっ、そうだ、挨拶をしないと。

「あの、その、な、ナオです。す、スライムはスラちゃんです。は、初めまして!」

 わわわ!
 ビックリした衝撃で、変な挨拶をしちゃったよ。
 しかも、椅子の上に乗っているスラちゃんと一緒に、ペコペコと何回もお辞儀しちゃいました。
 えっ、その、えーっと。
 ど、どうすれば良いんだろうか?
 すると、タイミング良く救世主が部屋から飛び出してきました。

 ガチャ。

「着替えたよ!」
「あー」

 アーサーちゃんとエドガーちゃんが、部屋から勢いよく飛び出してきて僕に抱きついてきました。
 そして、僕の側にいる国王陛下と王妃様を不思議そうに見上げました。

「おじーさま、おばーさま、何しているの?」
「なに、ナオがいたから挨拶したんだ」
「初めて会う人とは、挨拶しないとね」
「そうなんだ、僕も挨拶したよ!」
「あー!」

 良かった、何とか上手い感じに状況が変わったよ。
 僕もスラちゃんも、ホッと胸を撫で下ろしました。

「アーサーちゃんもエドガーちゃんも、ナオ君の事が気に入ったのかしら?」
「うん!」
「あう」
「あら、そうなのね。二人は、良い人じゃないと気に入らないもんね」

 王妃様が二人の頭を撫でながら優しそうな表情で話しかけているけど、二人もそうだしセードルフちゃんも感受性が強そうだから悪意に直ぐに気が付きそうだ。
 すると、各部屋のドアが良いタイミングで開きました。

 ガチャ。

「おや? 父上と母上も、これからは昼食ですか?」
「ふふ、そうよ。なんと言っても、沢山の兵を治療した凄腕の治癒師と話がしたいのよ」
「ナオにーに、凄かったよ!」
「あー!」
「それは、私も聞きたいな」

 ヘンリーさんの質問に、王妃様、アーサーちゃん、エドガーちゃんが笑顔で答えていて、更にジョージさんも食いついてきました。
 えっと、このままだと僕は王家の人たちと一緒に昼食を食べる流れになるのでは?
 すると、陛下が更に凄いことを言ってきた。

「ふむ、ちょうど大食堂で他の貴族と一緒に昼食を食べる事になっている。オラクル卿もいるから、ナオも気楽に昼食を食べられるだろう」

 えっ、ランディさん以外の貴族も一緒に食べるの?
 な、何だか凄いことになってきているよ。
 僕、そんな人たちの中に入っていいのかな?

 ガシッ。

「ほら、ナオ行くわよ。礼儀作法の勉強で、お腹ペコペコなのよ」
「あー、ずるーい!」
「ぶー!」

 そして、僕に考える暇も与えずにエミリーさんが僕の手を引っ張っていきました。
 アーサーちゃんが、スラちゃんを抱いてエドガーちゃんと手をつないで一緒についてきました。

「あらあら、とても楽しそうね」
「本当に賑やかね」
「仲が良いのは、とても良いことだわ」

 そして、僕たちの後ろからマリアさん、シンシアさん、ナンシーさんの楽しそうな声が聞こえてきました。
 個人的には、僕の取り合いになっていてちょっと戸惑ってます。