みんなで王都に向かったヘンリーさんたちを見送った後、シンシアさんが改めて僕たちに指示を出した。

「じゃあ、その間に代官邸を捜索するわ。みんなも手伝ってね」
「「ワンワン!」」

 探し物は大得意だと、クロちゃんとギンちゃんは尻尾をブンブンと振りながらとても張り切っています。
 僕も頑張ろうと思ったら、代官邸から使用人がかなり慌てた様子で僕たちの所にやってきた。

「あ、あの! どなたか治療を! 執事が自分の胸を刺して……」
「「「えっ?!」」」

 予想外のことに、僕たちはかなりビックリしちゃいました。
 そして、急いで僕たちは代官邸に入って行きました。

「……」
「しっかりして下さい!」
「もっとタオルを!」

 すると、玄関ホールで執事が血まみれで倒れていて、使用人が慌ただしく動いていた。
 出血の量が凄いから、とにかく急いで治療しないと。
 僕は、残り少ない魔力をかき集めて集中した。
 そして、意識のない執事の元に駆け寄った。

「直ぐに治療します!」

 シュイン、シュイン、シュイン!

 僕は、溜めに溜めた魔力を一気に放った。
 そして、魔法を放ちながら意識を執事の体に向けた。
 先ずは傷口を塞いで、出血を止めないと。
 僕は、聖魔法を右手から、回復魔法を左手から放った。

「凄い、これが『白銀の竜使い』様の魔法……」

 執事を包む魔法の光に、使用人も言葉が少なかった。
 でも、まだまだ魔力が足りない。
 このままでは、執事が死んでしまう。
 何か、いい方法はないだろうか。
 すると、あることに気がついた。
 今までの癖で治療の時は体全体に回復魔法をかけていたけど、傷口を塞ぐのなら一点集中の方が良いのではないかと。
 僕は、放っている魔力を胸のところに全集中させた。

「あっ、段々と出血が止まってきました」
「凄い。あと少しです! 頑張って下さい!」

 使用人が涙目になりながらも応援していた。
 それは、僕に対してなのか執事に対してなのかは分からないけど、いま分かっているのは僕も執事も頑張らないといけないってことです。
 僕はもっともっと意識を執事に集中し、傷の一つ一つを塞ぐイメージで回復魔法を放ちます。

「ぷはぁ、な、何とか治療出来ました……」
「すう、すう……」

 僕はぺたりと床に座ったけど、目の前には規則正しい寝息を立てる執事の姿がありました。
 よかった、何とか助けることができた。
 すると、シンシアさんがとんでもなくビックリした表情で僕に話しかけてきました。

「ナオ君、いったい何をしたの? 胸を刺した傷だから、流石に私も助けられないと思っていたわ」
「その、回復魔法を一点集中にして傷を塞ぐイメージでやりました。今までのやり方だと、全身に回復魔法をかけちゃいますので」
「なるほど、魔力の集中を行ったのね。それに、ナオ君の魔力の多さがあったからこそ治療できたのでしょう」

 シンシアさんは僕の理論に気がついたみたいだけど、それでもまだ完全には飲み込めていたかった。
 もちろん、他の人たちも同様でぽかーんとした表情をしていた。

「では、執事は守備隊の治療施設に運びます。また、今後は監視をつけるようにします」
「お願いね。重要参考人だから、死なれたらとても困るわ」

 ということで、執事は担架に乗せられて守備隊員が運んで行きました。
 出血量もとても多いし、暫くは予断を許さないね。
 そして、執事の血の跡はシアちゃんが綺麗さっぱり片付けてくれました。
 そして、もう一つ問題がありました。

「あの、殆ど魔力が残っていなくて力が抜けちゃいました……」

 僕も魔力切れに近い状態になってしまい、立ち上がれなくなっちゃいました。
 しかも、頭もふらふらになっています。
 すると、サマンサお姉ちゃんが僕のことをひょいとお姫様抱っこしちゃいました。

「すみません、暫くナオを休ませたいのですけど、どこか部屋は空いていますか?」
「客室にご案内します」

 サマンサお姉ちゃんは、僕を軽々とお姫様抱っこしたまま先導する使用人の後をついていきました。
 うん、意識がぽわーんとしてきたから、抵抗することもなにも出来ません。
 そして、部屋に着く前に僕はコテンと眠っちゃいました。
 僕としては、執事さんを助けられて良かったと思っていました。