森から馬車で十分進むと、ワークス子爵領の領都に到着しました。
 街は沢山の人で賑わっていて、市場も活気に溢れています。

「このワークス子爵領は、王都にも近い好立地で産業も農業も盛んだ。子爵領の中では、かなり裕福な方と言えよう」
「人々はとっても良い笑顔ですね。幸せそうです」
「領主が代々良い統治をしている。そのおかげで、領民も裕福だ」

 馬車の窓から見える光景も、とても良い感じです。
 これから会うワークス子爵様も、きっと良い人なんですね。
 そんな期待を胸に、僕たちを乗せた馬車は屋敷の中に入りました。
 直ぐに出迎えの侍従がやって来て、僕たちを応接室ではなく食堂に案内しました。
 確かにお腹ペコペコだけど、タイミングが良いですね。

 ガチャ。

「皆さま、お待ちしておりました。どうぞお座り下さいませ」
「マーサ殿、お心遣い痛み入る」
「お昼の時間に来られましたので、まだお食事をとられていないかと思いまして」

 あれ?
 ピンク色のロングヘアの美人さんが、食堂の当主席で僕たちを待っていたよ。
 てっきり男性の当主かと思っていたから、僕もスラちゃんもビックリしちゃったよ。
 僕たちも、進められるがままに席にすわります。

「あら、とても可愛らしい男の子がおりますね」
「初めまして、僕はナオと言います。このスライムはスラちゃんです」
「ご丁寧にどうもね。私はマーサ、このワークス子爵家の当主代理をしておりますわ」

 僕が席を立ってペコリと挨拶をすると、マーサさんもニコリとしながら挨拶をしてくれました。
 でも、当主と当主代理ってどう違うんだろうか?
 僕とスラちゃんがはてな顔をしていたら、マーサさん自身がその理由を教えてくれました。

「ふふ、不思議そうな表情をしているわね。実は、当主だった夫が半年前に病気で亡くなったのよ。息子が二人いるけどまだ未成年だから、私が代理となっているのよ」
「そ、そうだったんですね。その、ごめんなさい……」
「ナオ君、謝らなくて良いわ。ヘンリー殿下と共に行動するのなら、逆に知っておいた方が良いわ。それに、私も微力ながら統治のお手伝いをしているわ」

 しゅんとしちゃった僕とスラちゃんを、マーサさんは優しく慰めてくれました。
 とっても良い人だからこそ、旦那さんが亡くなっても統治できているんだね。
 ここで、ヘンリーさんがマーサさんに調査報告をしました。

「マーサ殿、簡潔に報告する。森は異常な状態だったが、ナオ君の浄化魔法で解決できた。ただ、原因についてはまだ不明だ」
「ヘンリー殿下、恐れ入ります。しかし、浄化魔法が効くのは限られるはずです。何にせよ、対策は打てそうです」
「流石はマーサ殿、ご慧眼恐れ入る。何かあったら、連絡をお願いします」

 ヘンリーさんの話を聞いたけど、マーサさんはとっても頭が良いんだ。
 浄化魔法というキーワードで、直ぐに色々な事を考えていた。
 それに、ヘンリーさんと話ができるだけでも、知識とかがないと駄目だよね。
 シンシアさん、ナンシーさん、エミリーさんも、真剣な表情で二人のやりとりを見守っていました。
 そして、ヘンリーさんとマーサさんの話が終わると、直ぐに食事が運ばれました。

「皆さまのお陰をもちまして、ワークス子爵領も平穏を取り戻しました。ささやかではございますが、お料理をご用意いたしました」

 想像以上に豪華な料理が出てきたけど、僕は料理のマナーを知らないよ。
 ど、どうしようか……
 迷っていたら、救いの手が差し伸べられました。

「ふふ、ナオ君、好きなように食べて良いのよ。マナーとかは気にしないで良いわ」
「なら、私がマナーを教えてあげるわ。ナオなら、直ぐに覚えるはずよ」

 マーサさんがニコリとしてマナーは関係ないと言ってくれるし、隣に座っているエミリーさんが嬉々として僕に簡単なマナーを教えてくれます。
 お陰で、失敗することなく昼食を食べられました。
 やっぱり、豪華な昼食はとっても緊張するね。
 昼食後は、少し休んでから王都に向けて出発します。

「では、私たちはこれで失礼します」
「皆さま、どうか道中お気をつけて」

 マーサさんに見送られて、僕たちは馬車に乗って王都に向けて出発しました。
 早いうちに対応が完了して、僕も他の人もホッと一安心です。
 すると、ヘンリーさんが明日以降について話しました。

「明日と明後日は、今日判明した事象の調査を行う。元々明後日は公務も予定していたから、私とシンシアは冒険者活動には参加できない」
「あっ、私も明日は礼儀作法の勉強があったんだ……」

 ヘンリーさんの話を聞いて、エミリーさんも勉強を思い出してがっくりとしちゃいました。
 となると、明日はナンシーさんと二人で冒険者活動をするのかな?
 すると、ナンシーさんもあることを思い出しました。

「あっ、明日は私もブレアと会うことになっているんだ。私も王城にいかないと駄目ね」
「ブレアも、ナンシーの事を気にかけていた。会って安心させてやりな」

 ナンシーさんの予定を聞いて、ヘンリーさんも是非にと言っていた。
 となると、明日は冒険者活動はお休みですね。
 せっかくだから本を読もうかなと思ったら、予想外の展開になってしまった。

「せっかくだから、ナオ君も王城に来ると良い。両親も兄夫婦も、ナオ君に会いたがっていたよ」
「あ、あの、ヘンリーさんのお父様とお母様って……」
「もちろん、この国の国王と王妃だ。だが、普通の家族として会うのだから気にしなくていいよ」

 ヘンリーさんが勇者様スマイルで僕に話しかけたけど、僕とスラちゃんはガチガチに固まっちゃいました。
 まさか、この国の国王陛下と王妃様に会うことになるなんて……
 ヘンリーさんもエミリーさんもとても良い人だから、国王陛下と王妃様も良い人なはず。
 失礼な事をしないかとか、どんな格好で会えば良いのかとか、帰りの馬車の中で色々と考えちゃいました。