予定通り、翌週から地方にある侯爵家に向かうことになりました。
 馬車で十日間以上かかる距離だけど、ドラちゃんなら三十分でひとっ飛びです。
 そんなドラちゃんも、朝からいっぱいお肉を食べてやる気満々です。
 僕も朝の訓練を終えて準備をしていたんだけど、ランディさんがあることを言ってきました。

「そろそろ、ナオ君も剣を下げた方が良いだろう。剣を扱うだけの能力もついてきたけど、貴族当主としての意味合いもある」
「あー、確かにそうだよね、もう法衣貴族になるのは確定だし、今のうちに慣れていた方がよさそうね」

 ナンシーさんもそう言ってくれたけど、いまは手持ちの中にダガー以外の剣はありません。
 なので、体の大きさを測っていま使っているダガーよりもちょっと長い木剣をモデルにして剣を作ってくれることになりました。
 それまでは、オラクル公爵家御用商会経由で似た剣を用意して貰うことになりました。
 ひとまず、今日はいつも通りの服装で行くことになりました。

「ふむ、確かにナオ君に剣は必要だ。明日には仮の剣が届くはずだから、さっそく使い勝手を確認しよう」

 ドラちゃんに乗るために王城からやってきたヘンリーさんも、僕に剣があった方が良いと言っていました。
 でも、使い勝手を確認するって、もしかして真剣で手合わせするのかな。
 何だかエミリーさんまでやる気になっていたし、明日がちょっと怖いかも。
 そんなことを思いながら、大きくなったドラちゃんの背中に乗り込みます。
 クロちゃんとギンちゃんは僕のリュックサックに入ったけど、クロちゃんが段々と大きくなってきたから今度どうやって乗るかを考えないといけないね。
 では、侯爵領に向かっていざ出発です。

 バサッ、バサッ。

「ヘンリーさん、先ずは領主の侯爵様に会うんですよね?」
「そうだ。これからどう対応するか、打ち合わせをしないとならない。ちなみに、侯爵家の屋敷の前に着陸していい許可を得ている」

 ドラちゃんの背中でヘンリーさんに話をしたけど、いったい侯爵様ってどんな人なのかな。
 ヘンリーさん曰く、侯爵様はシャーロットさんの娘さんを嫁にもらった人らしく、とてもいい人だそうです。
 となると、ヘンリーさんとエミリーさんの叔母さんがいるってことなんだね。
 そんなことを思っていたら、無事に侯爵領に到着しました。

「わあー、なんだか大きな湖があります!」
「あれは海といって、外国にも繋がっている。塩辛いのは、勉強したから分かるな」

 びっくりしている僕にヘンリーさんが微笑ましく教えてくれたけど、あれが海なんだね。
 ドラちゃんに乗って空高くにいるのに、海の先が全然見えません。
 それにたくさんの船が出ていて、とっても不思議な雰囲気ですね。
 時間があれば海に行ってみたいなと思いつつ、ドラちゃんは高度を下げていって無事に侯爵家の屋敷前に到着しました。

「わあ、ドラゴンだ!」
「すごーい、カッコいい!」

 大きいドラちゃんが着陸したとあってか、町の子どもたちは凄いものを見たと大喜びです。
 やっぱり、ドラゴンはとてもカッコいいよね。
 そして、既に話が通っているのか、門兵はすんなりと僕たちを屋敷の中に案内してくれました。
 とっても大きな屋敷で、庭もとても丁寧に手入れされていました。
 小さくなったドラちゃんとともに、僕たちは屋敷の中に入ります。
 直ぐに応接室に案内され、僕たちはソファーに座りました。

「ハグハグハグ」

 そして、いつのまにかスラちゃんがお皿とお肉を取り出していて、ドラちゃんが勢いよくかぶりついていました。
 あっという間に完食しちゃったけど、やっぱり長距離飛行はお腹が空くんだね。
 そして、ドラちゃんは僕の膝の上にちょこんと乗りました。
 クロちゃんとギンちゃんは、僕の足元にちょこんと座っていますね。

「もう少しでお館様がお見えになりますので、お待ち下さいませ」

 使用人が僕たちにお茶を出してくれて、一口飲むとホッと一安心しました。
 やっぱり、ドラちゃんの背中に乗るとちょっと緊張するんだよね。
 でも、あの速さはとっても面白いし、ドラちゃんも無理な飛行はしません。
 スラちゃん辺りは、あのスピードがたまらないと喜んでいます。
 そんな中、ヘンリーさんがちょっと首を傾げていました。

「おかしいなあ、侯爵は人を持たせることはしないのだが……」
「うーん、何かあったのかしら……」

 シンシアさんも不思議そうにしているけど、そもそも僕たちの着陸はとっても派手だったし直ぐに屋敷の人も気がついたはずです。
 エミリーさんもうーんって言っていたら、応接室に執事が入ってきました。
 何だか、とっても焦っているようにみえるよ。

「し、失礼します。皆さまのお力をお借りしたくお願いに参りました。ご子息様が、急に具合を悪くされまして……」

 これは一大事です。
 僕たちは一斉に立ち上がり、執事の後をついていきました。