翌日、ギンちゃんの活躍に触発されたこの二人がやる気をみせていました。

「「お手伝いするー!」」

 カエラとキースが、既に僕のお下がりの冒険者服を着て奉仕活動に参加すると宣言していました。
 うん、このやる気満々の状態で駄目って言ったら後々大変そうだから、僕は渋々二人の奉仕活動参加を許可しました。
 初日に治療のお手伝いをしていたし、だいぶ落ち着いてきたから大丈夫かなと、僕はこの時思っていました。

「「おはよーございます!」」
「キャンキャン!」
「あら、おはよう。今日は手伝ってくれるのね」

 スラム街の教会に着くと、今日は早く現地に着いていたシャーロットさんに挨拶をします。
 二人もギンちゃんも、とても気合が入っていますね。
 僕とドラちゃん、それにクロちゃんとギンちゃんは廃墟の浄化へ、そしてカエラとキースはシャーロットさんとともに奉仕活動の準備を行います。

 シュイン、ぴかー!

「ふう、これでよしっと。これで廃墟の浄化は終わったけど、二人はキチンとやっているのかな?」
「「キャン」」

 今日は少なめに五軒の廃墟を浄化したけど、僕の目下の興味は妹と弟に向けられていました。
 急いで教会に戻ると、そこではいつも通りの奉仕活動の風景がありました。

「ナオ、焦らなくても大丈夫よ。シンシアお義姉様が現場にいるし、お祖母様も一緒よ」
「キュー」

 エミリーさんとドラちゃんは、僕に問題ないよと苦笑しながら話しました。
 うん、ちょっと気にしすぎたかな。
 じゃあ、僕も治療を頑張らないとね。
 クロちゃんとギンちゃんも、頑張ると張り切っています。
 しかし、今日はちょっとした事件が発生しました。

「キャンキャン!」
「ああ? なんだこの犬は?!」

 さっそくクロちゃんが犯罪者を見つけたんだけど、その犯罪者はクロちゃんに吠えられたのがかなり気に入らなかったみたいです。
 小さな二頭の存在をみるやいなや、思いっきり足を振りました。

「うっせーから、どこかに行っていろ!」
「キャン!」

 シュイン、パキン。
 ブオン、ボキッ。
 ドサッ。

「うぎゃー! お、俺の足がー!」
「馬鹿ね。魔法障壁を蹴りつけるとは……」

 間髪入れずに発動したクロちゃんの魔法障壁を蹴り上げた犯罪者は、足を押さえながら地面を転がっていますね。
 ナンシーさんもちょっと呆れているけど、犯罪者は後ろ手に拘束されてから簡単な治療を受けていました。
 うん、このくらいは特に問題ないですね。
 本当の問題は、この件の少し後でした。

「はい、どーぞ!」
「いっぱい食べてね!」

 カエラとキースは、治療から炊き出しの配膳に移っていました。
 というのも、治療を受ける人が少なくなって孤児院の子二人とシアちゃんとドラちゃんで十分足りるからです。
 でも、念のためにということで、僕も治療班に付いています。
 カエラとキースは笑顔で配膳を行うので、炊き出しのスープを受け取る人も思わず笑顔になっています。

「そうそう、いい感じよ。心を込めて配膳するのよ」
「「はい!」」

 シャーロットさんも時折二人に声をかけているけど、心がけも説いていてやっぱりシャーロットさんは凄いなって思いました。
 そんな、ほっこりとした時のことでした。

「「「おらー!」」」

 何と、建物の物陰から複数の刃物を持った犯罪者が僕たちに襲いかかってきました。
 十人以上いるけど、僕たちも迎撃態勢はバッチリです。

「最初に数を減らします!」
「キュー」

 シュイン、ズドドドーン!
 シュッ、ジュッ!

「「「うがあ!」」」

 僕たちのいる治療班の方に多くの犯罪者が駆けてきたけど、僕とドラちゃんのホーリーバレットの乱射とシアちゃんの酸弾で確実に無効化します。
 というか、シアちゃんは相変わらず犯罪者の股間目掛けて酸弾を放つんだね。
 一撃ノックアウトで、確実に僕とドラちゃんよりもダメージを与えているよ。

「せい、やあ!」
「とー!」
「キャン!」
「「「ぐはっ……」」」

 炊き出しの方にも犯罪者が多数現れたけど、ナンシーさんとエミリーさん、そして魔法障壁を展開して突っ込んでいくクロちゃんのおかげで数を減らしていきます。
 兵もたくさんの犯罪者を捕まえたんだけど、全体の意識がそっちに向いていた瞬間でした。

 ダッ。

「「おおー!」」

 なんと、炊き出しの列に並んでいた二人が、刃物を持って駆け出しました。
 クロちゃんの確認しているエリアじゃなくて、これから確認するところでした。

「ちっ、まさか陽動とは!」

 シュイン、バシュ。
 バリバリバリ!

「うぎゃー!」

 一人はエミリーさんのサンダーバレットで倒れたけど、もう一人が辛うじて避けてシャーロットさんに刃物を向けました。
 でも、シャーロットさんの前には心強い人がいました。

「お祖母様は、やらせないわ!」
「「えーい!」」

 シュイン、ズドン、ズドン、ズドン!

「ぐはっ!」

 ダッ、ズサッ。

 シンシアさんが、魔法障壁を張ってシャーロットさんを守りながらアクアバレットを放ちました。
 更に、カエラとキースはお得意の風魔法の一つのエアロカノンで相手をぶっ飛ばしていました。
 哀れ、シャーロットさんを襲った犯罪者はなすすべなく遠くまで吹き飛んでいました。
 はっ、そうだ。
 周囲の探索をしないと。

 シュイン!

「えーっと、まだ物陰に隠れている人がいます!」
「分かったわ。そちらには、兵を向かわせましょう」

 シンシアさんが手早く指示を出し、兵の一部が建物の周囲の確認に向かいました。
 そんな中、トボトボとしながらシャーロットさんの方に向かったものが。

「お祖母様、ごめんなさい。敵を撃ち漏らしてしまいました……」
「「キューン……」」

 エミリーさん、クロちゃん、ギンちゃんは、項垂れながらシャーロットさんに謝っていました。
 結果的に、クロちゃんたちの確認が始まる前に事件が起きたから、シャーロットさんを襲った二人を捕らえることができなかったんだよね。
 でも、シャーロットさんは全く気にしていません。

「今回は敵の陽動に引っかかったのかもしれないけど、万が一のことがあっても私の周囲には心強い人がいるわ。だから、反省して次に繋げればいいのよ」

 シャーロットさんはエミリーさんのことを抱きしめて、クロちゃんとギンちゃんのことも頭を撫でていました。全員、一生懸命に対応したのは間違いないもんね。
 それに、カエラとキースがやったぞとドヤ顔でいました。

「二人とも、危ないところを助けてくれて本当にありがとうね。とても、カッコよかったわ」
「「えへへ」」

 シャーロットさんに褒められて、二人ともとてもご機嫌です。
 こうして、襲撃事件はあったけど気を取り直して奉仕活動は再開しました。
 僕も、もっと強くなってみんなを守れるようにならないとね。