翌日も、僕たちは予定通りスラム街の奉仕活動を行います。
 家宅捜索した伯爵家への捜索の続きをするかもしれなかったけど、スラちゃんとクロちゃんが張り切った結果、殆どの証拠を見つけちゃいました。
 なので、僕たちがやることが何もなくなっちゃいました。
 ヘンリーさんとスラちゃんはまた特殊班として活動するけど、これは特に気にしなくていいですね。

「あの仲睦まじい夫婦を襲った悲劇的な事件が解決できて、本当に良かったと思うわ。私もあの伯爵家が怪しいと見ていたのだけど、中々証拠を掴めなかったのよ」

 シャーロットさんも思わずホッとしていたけど、事件は僕がヘンリーさんたちに保護される前に起きたんだって。
 あの時の僕は、三人にこき使われていて周囲のことを気にする余裕は全く無かったもんなあ。
 そして、実は新しいお友達ができました。

「じゃあ、クロちゃんはギンちゃんの面倒をみてあげるんだよ」
「「キャンキャン!」」

 例の伯爵家の屋敷から、虐待された銀色の毛並みの子どもオオカミが見つかりました。
 あの夫妻は自分たちに子どもができないので比較的手に入りやすいオオカミの子どもを手懐けようとしたみたいです。
 でも夫妻は酷い性格なので、本能で危険だと思った懐かないオオカミの子どもを虐待していたそうです。
 クロちゃんが積極的に面倒をみていたので、そのまま僕が預かることになりました。
 ちなみに、名前はやっぱりスラちゃんがつけました。
 とはいえ、ギンちゃんはクロちゃんよりも体が小さいので、頑張りすぎないように気をつけましょう。

「じゃあ、最初は僕が廃墟の浄化を行うよ。クロちゃん、よろしくね」
「キャン!」

 クロちゃんによどみの有無を確認してもらいながら、僕はドラちゃんと一緒に廃墟の浄化を進めます。
 クロちゃんは、ギンちゃんにどんな臭いがよどみなのかを教えています。
 けど、直ぐに嗅ぎ分けるのは難しいですね。
 だから、ギンちゃんはクロちゃんの側にいて勉強をします。
 浄化が終わったら、さっそく治療の続きを行います。

「キャン」
「キャンキャン!」

 そして、ギンちゃんはクロちゃんとともに遊撃班の勉強もします。
 クロちゃんがこっちだよとギンちゃんに声をかけるのが、何だか微笑ましくて可愛いですね。
 同じ遊撃班のナンシーさんとエミリーさんも、思わずほっこりしていました。

「キャンキャン!」
「がっ、なんだこいつは!」

 その分、クロちゃんはとても張り切っていて、どんどんと犯罪者を捕まえていました。
 なので、軍の兵もとても大忙しです。

「すごいねー、頑張っているねー」
「張り切っているよー」

 実は、今日はカエラとキースも治療を手伝っていて、頑張っているクロちゃんのことをニコニコしながら見つめていました。
 昨夜オラクル公爵家にギンちゃんを連れて帰ったら、セードルフちゃんもルルちゃんも新しいお友達の登場に大喜びしていたっけ。
 ギンちゃんもオラクル公爵家の人々がとても優しいから、直ぐに懐いていました。
 今まで虐待をされていて辛い思いをしたのだから、ギンちゃんには幸せになってもらいたいよね。

「「ハグハグハグ」」
「「「おおー、いっぱい食べているよ!」」」

 昼食の時間になると、クロちゃんとギンちゃんはご褒美のお肉をいっぱい食べています。
 孤児院の子どもたちが代わる代わる二頭の頭を撫でているけど、子どもたちに悪意がないからかギンちゃんもなすがままですね。
 僕たちも、炊き出しのスープをもらいながら交代しながら昼食を食べています。

「クー、クー」

 そして、午前中張り切っていたギンちゃんはシアちゃんが治療している椅子で寝始めちゃいました。
 まだクロちゃんより小さい子狼だから、寝ちゃうのは仕方ないよね。
 シアちゃんも、ギンちゃんが起きないように気をつけながら治療しています。
 町の人も、時折寝ているギンちゃんを起こさないようにしながら頭を撫でていました。

「アフ? キャンキャン!」
「キャン!」

 ギンちゃんが起きるまで微笑ましい光景は続き、ギンちゃんもお昼寝から起きるとクロちゃんのところに駆け寄って元気よく動き始めました。
 クロちゃんもギンちゃんが一人前になれるように頑張っているけど、クロちゃん自身もまだ小さいんだよね。
 でも、ギンちゃんは先輩の言うことを良く聞いています。
 こうして、ほんわかした空気の中で午後の奉仕活動は進んでいきました。

「キャン!」
「ふふ、そうね。今日はギンちゃん大活躍だったわ」
「キャンキャン!」

 シャーロットさんは、尻尾をふりふりとしているギンちゃんの頭をニコリとしながら撫でていました。
 ギンちゃんも、シャーロットさんに褒められてとってもご満悦です。
 こうして良いことをしたら褒めるのを続けていくのが、虐待されていたギンちゃんにとっていいことなんだって。
 僕も、後でギンちゃんを褒めてあげないと。
 こうして、後始末も終わったので僕たちはスラム街から帰りました。

「はい、今日頑張ったギンちゃんにはご褒美があるわよ」
「キャンキャン!」
「「「すごーい!」」」

 そして、夕食時にレガリアさんがギンちゃんに特製のお肉を出してくれました。
 ギンちゃんはもう嬉しさ爆発で、尻尾をブンブンと振りながらお肉にかぶりついていました。
 そんなギンちゃんのことを、子どもたちもニコニコしながら頭を撫でていました。
 今日は、色々な人に褒められて良かったね。