こうして午後の奉仕活動が落ち着いたところで、ヘンリーさんとスラちゃんが僕たちのところに合流しました。
 何かを掴んだという表情ですね。
 話は、馬車の中でしてくれることになりました。

「とある伯爵家が、先日南町のスラム街で捕まえた犯罪組織と繋がっていることが分かった。ブレアたちも動いているが、他にも対応しないといけない貴族がいて手が足らない。そこで、我々が当主の捕縛と家宅捜索を行うことになった」

 同時並行で複数の貴族家への家宅捜索を行っているらしく、ブレアさんだけでなく王太子殿下のジョージさんも王城で忙しく動いているそうです。
 しかも、普段から王族や他の貴族に反感を持っている貴族一派だそうです。
 ここは、僕たちもお手伝いしないと駄目ですね。
 悪いものを全部見つけると、スラちゃんとクロちゃんもかなり意気込んでいました。
 スラム街からその貴族家までは直ぐに着くそうで、既に兵の一部が貴族が逃げないように屋敷の周囲の警戒にあたっているそうです。
 ということで、僕たちはその貴族の屋敷前に到着しました。

「状況はどうだ?」
「はっ、動きはありません。屋敷に立てこもっております」
「まあ、予想通りだな。では、行くとするか」

 屋敷の門は解錠してあるけど、肝心の屋敷の玄関の鍵は閉まっています。
 でも、僕たちにとってはあまり関係ないけどね。
 ここでも、スラちゃんが玄関の鍵穴に触手を差し込みました。

 ガチャガチャ、ガチャ!

「流石だな。では、屋敷の中に入るとしよう。無抵抗なものに乱暴を働くことを禁ずる」
「「「はっ」」」

 スラちゃんの鍵開けは、本当にスピーディーだよね。
 ヘンリーさんが兵に指示を出して、僕たちも屋敷の中に入りました。
 屋敷の中に入ると、なんで入ってきているのってビックリした表情の使用人の皆さんがいました。
 ヘンリーさんは、そんな驚いている使用人に構わず質問していました。

「王国第二王子ヘンリーだ。これから家宅捜索を行う。当主はどこにいる?」
「お、お、お館様は、応接室に……」

 使用人は、目の前に現れたのがまさかの王子様でとんでもなくビックリしていた。
 そして、どもりながらも辛うじて指でどこにいるかを指していた。
 探索魔法を使いながら、屋敷の中のどこに人がいるかを確認していく。

「キャンキャン!」

 すると、ある部屋の前でクロちゃんが激しく吠えた。
 探索魔法でも、この中に二人いるのが分かった。
 スラちゃんが、素早く鍵開けを行います。

 ガチャガチャ、ガチャ!
 バン!

 スラちゃんが鍵開けをすると同時に、近衛騎士が剣を構えながらドアを開けました。
 そして、兵が一斉になだれ込む中、僕たちは敢えてゆっくりと部屋の中に入りました。

「な、な、なんでここに……」
「あっ、ああ……」

 部屋の中には、当主と夫人と思わしき人物が驚愕の表情をしていました。
 結構若い夫妻だけど、なんで悪いことをする人ってみんな横に大きいのだろうか。
 そんな中、スラちゃんとクロちゃんはお構い無しに部屋の中を捜索し始めました。

「キャンキャン!」

 そして、クロちゃんが本棚の前で激しく吠えると、スラちゃんがすすっと登っていって、一枚の書類を取り出しました。
 ヘンリーさんは、スラちゃんから受け取った書類をしげしげと眺めていました。

「ふむ、わざと本の間に隠していたのか。これは、犯罪組織とのやり取りの資料だな。ふむ、夫人も連名で署名しているとは悪質性も高いな」
「「なな……」」

 当主夫妻は再び驚愕の表情を見せているけど、もうここまで証拠を掴めば言い逃れはできないでしょう。
 ヘンリーさんが、僕に命令を下しました。

「ナオ君、あの二人を拘束してくれ。過去の、貴族当主殺人容疑がかかっている」
「はい!」

 シュイン、バシッ。

「「がっ、くそ!」」

 僕がバインド魔法で二人を拘束し、素早く兵が縄で更に拘束していきます。
 そして、あっという間に連行されていきました。
 そのタイミングで、僕はヘンリーさんに質問しました。

「あの、ヘンリーさん。あの二人が何かをしたんですか?」
「対立している貴族家の当主夫妻への暗殺容疑がかけられている。あの二人が怪しいと思われていたのだが、決定的な証拠がなかったのだよ。今回南町の犯罪組織から、その証拠が見つかったのだよ」

 王家を支える立場の貴族と仲が悪く、若い夫妻を外出時にまとめて殺害したらしい。
 生まれたばかりの赤ちゃんがいたので貴族家は存続したけど、当面は影響力を失うのは確実だった。
 しかも、その貴族家当主とジョージさんは親友だったらしい。

「兄上は、その貴族夫妻に妊娠が分かってとても喜んでいた。なのに、まさかこんなことになるとはと深く悲しんでいた。だが、王太子という立場を考えるとおいそれと前面に出るわけにはいかない。だから、代わりに私たちが向かった」

 赤ちゃんはまだエドガーちゃんよりも小さくて、ジョージさんもこんなことになるとは思っていなかったのだろう。
 ジョージさんがその貴族家を色々と支援しているらしいけど、子どもが大きくなるまでは大変だろうね。

「罪状とすれば貴族家当主夫妻への殺人になるが、犯罪組織と繋がっていたのも考えるともっと罪状は増えるだろう。とにかく、今は証拠を押さえるぞ」
「「「はい!」」」
「キュー!」
「キャン!」

 こうして、ヘンリーさんの号令の下で僕たちは忙しく動きました。
 スラちゃんとクロちゃんが様々なところから犯罪の証拠を集めていき、更に犯罪に加担したものをその優秀な鼻で嗅ぎ分けていました。
 ちなみに、今回捕まった当主夫妻には子どもがなく、仮にこの伯爵家が残ったとしても誰が継ぐかで揉めそうだとヘンリーさんが言っていました。