昼食になったタイミングで、今度はヘンリーさんが僕に声をかけてきました。

「ナオ君、一区画スペースができた。さっそく、仮設住宅を作ってくれ」

 ということで、またまたシンシアさんに治療をお願いして解体作業が済んだところに行きました。
 おお、綺麗に不要な建物が解体してあるね。
 ボロボロ過ぎて、誰も住むことのなかったところです。
 土地の権利も、全く問題ないそうです。
 大体の設計図をヘンリーさんが作ってくれたけど、一階の一部に共用の台所とトイレとお風呂があって、後は二階も含めてお部屋ですね。
 後は、井戸も掘るそうです。
 ではでは、さっそく作っちゃいましょう。
 僕は、魔力を溜めて地面に手をつきました。

 シュイン、ズゴゴゴゴ。
 ズゴゴゴゴ!

「な、なんじゃこりゃ!」
「二階の建物に、井戸までできたぞ!」

 全部まとめて建物を作ったら、解体作業をしているスラム街の人たちがびっくりし過ぎて尻もちをついちゃいました。
 炊き出しや治療に並んでいる人も、突然現れた建物を見て思わずポカーンとしちゃっています。
 頑丈に作っていいと言われたので、カチンコチンの土の家ができました。
 さっそく、作業をしていたスラム街の人々に建物の中に入って貰って、使い心地を確認してもらいます。

「大雨が降ってもへっちゃらなくらいに仕上げました。窓がないので、今はひさしで雨よけをしています」
「このくらいの窓なら、廃材を使えば直ぐに作れるぞ。釘を打てるのもいいな」
「土の家だから火事の心配もないし、そういうところはいいぞ。変なところに住んでいるなら、こっちの方が断然いいぞ」

 ランプとかで灯りも採れるし、夜も大丈夫だそうです。
 ヘンリーさんたちもオッケーを出してくれたので、これで大丈夫ですね。
 夕方前にはもう一区画廃墟の解体が進むので、土の家をもう一軒建てる予定です。
 そういえば、スラちゃんの姿がさっきから見えないけど、どっか行っちゃったのかな?

「スラちゃんは、兵とともに別行動中だ。心配しなくてもいい」

 僕にヘンリーさんがサラリと答えちゃったけど、僕としてはスラちゃんが張り切りすぎないかが心配です。
 そう思って、再び治療に戻りました。

「シンシアさん、ありがとうございました」
「このくらいは全然大丈夫よ。じゃあ、孤児院の方に行ってくるわね」

 実は、午後になって更に保護した子どもが増えちゃいました。
 こればっかりはしょうがないと思いつつ、僕は治療を行います。
 シンシアさんがいるし、何かあっても大丈夫ですね。

「いやあ、ボウズはすごい魔法使いだったんだな!」
「あんなに簡単に家を作っちまうとはな」

 治療を受けたおじさんが、とっても上機嫌で僕の頭を撫でていました。
 治療や浄化だけだと魔法の凄さは分からないけど、土の家は明らかにインパクトがあった。
 子どもが叩いたり蹴ったりしてもびくともしなかったのも、大きな視覚的効果があった。
 これで、王族によるスラム街の炊き出しだけでなく、とんでもない魔法使いがいるという犯罪者への牽制にもなるという。
 そして、更に凄いことをした面々が教会前に戻ってきた。

「お、おい。あれって、スラム街の一角を占拠していた犯罪組織じゃねーか?」
「ぞろぞろとお縄について連行されていくぞ」

 なんと軍とスラちゃんが、犯罪組織の一つを壊滅させたのだった。
 最初に捕まえたものを尋問して得られた情報を元に、スラちゃんが潜入をして一網打尽にしたという。
 犯罪組織は、なすすべなく全滅したそうです。
 気のせいか、何人かの捕まった犯罪者の顔がボコボコになっているよ。
 きっと、スラちゃんの気にさわることを言ったんだ。
 これで、王族がスラム街の犯罪組織壊滅に本腰を入れ始めたという周知にもなった。

「牢屋の問題で今日はここまでだが、明日はあと三つ犯罪組織を潰す予定だ。炊き出しに注目が集まっているから、我々としても動きやすい」

 ヘンリーさんは不敵にニヤリとしていたけど、逆をいうと大きな戦闘に発展する可能性もある。
 十分に気をつけないと駄目だね。
 こうして夕方になってもう一軒仮設住宅を建てて、今日の活動は終了です。
 後片付けをして解散なんだけど、今日は念の為に教会に兵を多数配備させるそうです。

「お祖母様、明日はもしかしたら危険なことが起きるかもしれません。ですので……」
「だからこそ、私も頑張らないといけませんわ。それこそ孫とナオ君たちが頑張っているのに、王城でのんびりとなんかしてられませんわ」

 何というか、シャーロットさんの意思はとても固かった。
 シャーロットさんも、本気でスラム街の人々をどうにかしたいと思っています。
 なので、ヘンリーさんも兵を増強するという手で安全を確保するそうです。
 僕はってヘンリーさんに聞いたら、その強さは守られる側ではないとあっさりと言われちゃいました。
 僕はまだ九歳のか弱い男の子なのになあって、そう思っていますよ。