コンコン。

「失礼します。皆様の報酬の査定が完了しましたので、報酬をお持ちしました」

 ここで、受付のお姉さんがお金を人数分に分けた革袋を持ってきてくれた。
 それぞれ革袋を受け取るのだけど、何だかズッシリと重いのは気のせいだろうか。
 そーっと革袋の中を覗いてみて……

「えーっと、ヘンリーさん、この金額は合っていますか?」
「大体こんなものだろう。今回は素材の買取金額も上がっているし、ビッグボアもいる」
「軽く話を聞いたが、妥当だろう。毛皮も肉も使えるから、価値は高いぞ」

 ヘンリーさんも補足してくれたギルドマスターも、もちろん他の人も問題と頷いていた。
 うーん、今まで殆どお金を分けて貰っていなかったからある意味衝撃的なんですけど。
 あっ、そうだ。
 ゴソゴソ。

「ヘンリーさん、昨日払って貰った宿代です。受け取って下さい」
「ナオ君は、とても律儀だね。じゃあ、ありがたく受け取るよ」

 宿代は僕の宿泊費も入っていたから、これは払わないと駄目って思っています。
 ヘンリーさんも僕の思いを分かってくれたので、勇者様スマイルでお金を受け取ってくれました。
 それでも、手元には沢山のお金が残りました。
 これだけのお金があれば、贅沢しなければ一ヶ月は過ごせそうです。
 これで今日の冒険者活動は無事に終わり、馬車に乗ってオラクル公爵家へ帰ります。

 ガチャ。

「よっと。今日はありがとうございました」
「お礼を言うのは私の方だ。では、また明日朝会おう」

 玄関前で、僕とナンシーさんは王城に向かう馬車を見送りました。
 何だか、色々あった一日ですね。
 でも、とっても充実した一日でした。
 僕は、ナンシーさんと共に屋敷に入りました。

「「ただいま帰りました」」

 トトトト。

「おかーりー!」

 ぼすっ。

 玄関で帰宅を告げると、セードルフちゃんが勢いよく僕とナンシーさんの足に抱きついてきました。
 そのまま可愛い表情で見上げてきたので、僕とナンシーさんもニコニコしながらセードルフちゃんの頭を撫でてあげました。
 そこに、レガリアさんもやってきました。
 妊娠中のイザベルさんに代わって、セードルフちゃんの相手をしてあげていたみたいですね。

「二人とも、お帰りなさい。ナオ君、部屋が変わったから案内してあげるわ」
「にーに、いっしょにいこー!」

 僕は自室に向かったナンシーさんと別れて、セードルフちゃんと手を繋ぎながらレガリアさんの後をついていきます。
 でも、ナンシーさんの後をついて行っているのは気のせいかな?
 そして、オラクル家のプライベートスペースに入ったとある一室の前に、レガリアさんが止まりました。

 ガチャ。

「おおー!」
「ナオ君、ここよ。狭い部屋でごめんなさいね」
「あの、十分な広さです……」

 案内されたのは、確かに昨日の客室よりも狭いけど、僕からすると十分な広さの部屋だった。
 セードルフちゃんは、さっそく部屋の中を走り回っていた。
 何でこの部屋になったか、レガリアさんが教えてくれた。

「我が家って来客が多いから、客室をずっとナオ君に貸し出す訳にはいかないのよ。狭いけど、ちょうど部屋空いているからそこをナオ君の部屋にしたのよ」
「そうだったんですね。わざわざありがとうございます」
「良いのよ。このくらいは気にしないでね」
「わーい!」

 ウィンクをしながらレガリアさんが教えてくれたけど、気を使ってくれてとってもありがたいですね。
 そして、レガリアさんはナンシーさんにドア越しに声をかけた。

「ナンシー、ナオ君をお風呂に入れて頂戴」
「わかったー」

 あの、僕は一人でお風呂に入れますよ。
 しかも、セードルフちゃんみたいに小さくないですよ。
 でも、そんな僕の願いは簡単に打ち消されました。

 ガチャ。

「さあナオ君、お姉ちゃんが綺麗に洗ってあげるわよ」
「あー、ずるーい!」
「セードルフちゃんは、今度一緒にナオ君とお風呂に入りましょうね」

 セードルフちゃんの非難の声を背に受けつつ、僕はナンシーさんに手を繋がれてお風呂に向かいました。
 スラちゃんは、ちゃっかりとセードルフちゃんに抱かれていますね。
 そして、昨日僕の体を洗った侍従も一緒に脱衣所に入ります。

「はい、ナオ君服を脱ごうね」
「お手伝いします」
「わあ!」

 すぽぽぽーん。

 僕はあっという間に服を脱がされて、そのまま侍従に洗い場に連れて行かれました。
 更に、服を全部脱いだナンシーさんも入ってきました。

 ごしごし、ごしごし。

「はいはい、綺麗に洗ってあげるわ。うーん、ナオ君って年齢よりも小さいし痩せているから本当に女の子みたいだわ」
「もう少しキチンと食べられると、体つきもだいぶ変わってくるのかと。そういえば、昨日はナオ様の背中などに突き飛ばされた際にできたあざがございました」
「あの馬鹿三人ね。こんなに痩せているのも、あの馬鹿がまともに食事をさせなかったためね」

 えーっと、僕の背中を洗ってくれているナンシーさんから黒いオーラが漏れ出ているのが分かるんですけど。
 何とか体を洗い終えて、僕は湯船に浸かりました。

「ふいー」
「ふふ、気持ちよさそうにしているわね」

 ナンシーさんが体を洗っている間に、僕は湯船に入ります。
 疲れた体に、お湯が染み渡ります。
 すると、頭を洗っているナンシーさんからこんな提案が。

「ナオ君、今度剣技を教えてあげるね」
「とっても助かります。僕、剣は全然駄目なんです」
「その代わりに、凄い魔法が使えるけどね。杖を使った棒術も使えるようになった方がいいわ」

 新しい事を覚えるのは、とってもワクワクするね。
 それに、魔法使いでも自分の身を守れた方が良いはず。
 僕は一足先に湯船から上がって、服を着ながらどんな事を教わるんだろうと妄想していました。