その後の屋敷の捜索は、とても順調に進みました。
 既に暗黒杯はスラちゃんとドラちゃんによって無効化されているし、暗黒杯に取り付けられた魔石も取り外されています。
 儀式を行っていた部屋にいっても、本当に儀式しか行っていないのか何もでてこなかった。
 執務室も、スラちゃんとシアちゃんのスライムコンビがそこら中を探しまくったけど、邪神教の関係者に接触したというものくらいしか証拠品は出てこなかった。

「この辺は、フィース子爵の尋問結果次第だろう。深く考えても仕方ない。フィース子爵に協力している貴族がいなかった可能性もあるからな」

 確かに、あの自分勝手なフィース子爵を利用する人はいても協力する人がいるかなって思っちゃいます。
 僕から見ても、リスクが大きい気がするよ。
 こうして捜索は軍に任せたんだけど、ヘンリーさんとスラちゃんはフィース子爵の尋問を行うそうです。
 また催眠術を使うのかなと、そう思っちゃいました。
 僕たちは、軍の施設に戻って治療を再開します。

「うーん、何だか手応えのなかった戦いだったわ」
「それは、サマンサさんだから言えることよ。私たちならともかくとして、普通の兵では相手にならない可能性があるわ」

 馬車の中でサマンサお姉ちゃんが拍子抜けしたような感想を言っているけど、僕もシンシアさんと同じ意見です。
 身体能力強化を全開にしたサマンサお姉ちゃんは、とんでもなく強いんだよね。
 しかも、できるだけ屋敷が傷つかないように戦っていたから、本当に凄いと思います。
 そんなサマンサお姉ちゃんに、エミリーさんが目をキラキラさせながら話しかけていました。

「私は回復魔法が使えないから、そう考えると皆さんの方が凄いと思います。戦闘特化だから、よく恋人にも苦笑される時があるのよ」
「そこは適材適所ですわ。お義姉様は、それだけ大きな力を持っておりますし。ナオも、何でも器用に魔法を使いますし、凄いきょうだいですわね」
「ふふ、ありがとうね。ナオの魔力制御の器用さは、きっとお父さん似だわ。お母さんは、どちらかというと私に似た戦闘スタイルですし」

 そこまで言ったところで、サマンサお姉ちゃんがあることを思い出しました。
 ぽんと手を合わせてから、僕に手を話しかけました。

「そうそう、カエラとキースも少しずつ冒険者として動き出すことになったわ。来年あたり、もしかしたらナオのところに行くかもしれないわね」
「そういえば、僕が冒険者活動を始めた年でもあるんだよね。最初は、薬草採取とかの簡単な依頼から始めないと」
「でも、あの二人も中々の魔法の腕を持っているわ。秋頃には、害獣駆除も始めていそうよ」

 因みに、カエラが身体能力強化系でキースが魔法使いタイプです。
 使える魔法属性は同じなのに、魔法使いのタイプが違うなんて面白いよね。
 そんな話をしつつ、軍の施設に到着です。
 さっそく治療を再開したけど、その間も女性陣はお話を続けていました。
 こうしてお昼前には無事に治療を終え、僕たちは再び会議室に呼ばれました。
 会議室では、ヘンリーさんとスラちゃんが僕たちを待っていました。
 そして、直ぐにヘンリーさんがフィース子爵の聴取結果を教えてくれた。

「フィース子爵が暗黒杯を使った反動で寝ていたので、スラちゃんに催眠術を使ってもらった。分かったのは、貴族の協力者はいないということと犯罪組織から邪神教関連の情報を得たということだ」
「となると、今のところはフィース子爵の単独犯なんですね」
「そうなるな。元々先代フィース子爵は人望が厚い人物だったが、残念ながら当人は自分勝手な人物だった。そこで、先代フィース子爵が亡くなる際に息子に近づくなと知り合いの貴族に手紙を出していた。因みに、フィース子爵家は先代の弟が暫定当主になる。まあ、被害が少ないから爵位降格と罰金刑で落ち着きそうだ」

 スラちゃんも、これ以上は情報を聞き出せないとふるふるとしていた。
 その犯罪組織の名前は割り出したので、現在軍が拠点を探しているそうです。
 しかし、先代フィース子爵が息子をどんなに教育しても駄目だったのを考えると、完全に本人の資質が駄目だったとしか考えられないですね。
 幸いなことに、先代フィース子爵の弟は兄に似てとてもいい人だそうです。
 先代フィース子爵の弟の働き次第で、爵位は元に戻ることも検討するそうです。
 何だか、色々と難しい事件でしたね。

「ということは、これで僕の実家にちょっかいを出した二家の対応は終わったことになりますね」
「そうだな。新年早々事件を起こすとは思わなかったが、これで落ち着いたと言えよう。ボンバー伯爵一派の残党が何かする可能性はあるが、犯罪組織自体を潰したから当分は大丈夫だろう」

 ヘンリーさんも答えてくれて、本当にホッとしました。
 特にカエラとキースに何かあったらと思うと、僕もとても心配になります。
 そして、サマンサお姉ちゃんもホッとしながら僕に話しました。

「じゃあ、明後日に実家に帰るわね。せっかくだから、明日の夜会には出させて貰うわ」
「お父さんが、早く帰ってこないかって心配しそうだね。でも、事件が落ち着いてホッとしたよ」
「私もよ。それに、ナオがキチンと頑張っているのを実際に見れて、私も安心したわ」

 サマンサお姉ちゃんも、僕が王都でキチンとお仕事しているか心配だったみたいです。
 僕もちゃんとお仕事しているし、まだまだやることはたくさんあります。
 今日はこれで終わりだけど、明日もお仕事を頑張らないとね。