翌日、軍の治療施設で治療を行うことになったんだけど、先に会議室に来て欲しいと言われました。
 なにやら、捜査で進展があったそうです。
 何かなと思いつつ、みんなで会議室に向かいました。

「今回は、ボンバー伯爵ではなくフィース子爵の件だ。どうも年始にナオ君の実家を襲った二組の襲撃者は、両方とも同じ組織だと判明した。邪神教云々以前にフィース子爵が犯罪組織と接触したのは間違いないので、その切り口から捜査を行うことになった」

 この件は、思いっきりサマンサお姉ちゃんにも関わることです。
 というか、まさか二つの襲撃者が一緒の組織だったとは。
 ある意味、呆れてものも言えないですね。

「そこで、フィース子爵は確実に罪を問えるところから捜査を行うことになった。スラちゃんとドラちゃんは、さっそくフィース子爵家の潜入調査を行ってくれ。邪神教に関する証拠を押さえたら、家宅捜索を行う」
「キュ!」

 スラちゃんとドラちゃんが、ヘンリーさんに可愛らしく敬礼しています。
 そして、さっそくフィース子爵家へ向かって飛んでいきました。
 となると、この後僕たちも捜査に行くかもしれませんね。
 この流れは既に一回やっているし、その時も実家関連だったよね。
 ということで、いつでも動けるように心構えをしながら兵の治療を始めました。

「例の、自分は凄いんだと思い込んでいる人の件ですよね。捜査を行うと、下手すると激しく抵抗する可能性がありそうです」
「その可能性は否定できないわ。何せ、自分は間違っていないという考えの持ち主ですから。戦闘準備もしておきましょう」

 移動しながらシンシアさんと話をしたけど、どうして自分勝手なことをするんだろうね。
 もちろん、他の人も憤りを隠せません。
 とはいえやることは決まっているし、今日は省エネモードで治療します。

「おっ、今日は美人のねーちゃんがいるんだな」
「ナオのお姉様よ。婚約者がいるから、アプローチは駄目よ」
「王女様、いきなりフラグを折らなくても……」

 治療する兵にもサマンサお姉ちゃんは大人気だったけど、エミリーさんが最初にビシッと説明したので無用な混乱は起きませんでした。
 サマンサお姉ちゃんも一生懸命に仕事をするので、兵も絡みづらいみたいです。
 あと、僕に「あんな綺麗なねーちゃんがいるなんて羨ましい」って言う人もいました。
 僕にとっては、元気で活発なお姉ちゃんってイメージが強いんだよね。
 そして、一時間ほど治療したタイミングで、スラちゃんたちに動きがあったみたいです。
 僕たちは、もう一度会議室に集まりました。

「スラちゃんたちが、フィース子爵家で暗黒杯を発見した。既に無効化して魔石も取り外したらしいが、暗黒杯は所持するだけで駄目だ。よって、これからフィース子爵家に家宅捜索を行う。ただ、戦闘が起きる可能性があるから全員武装するように」
「「「はい!」」」

 やっぱりというか、フィース子爵は邪神教に関わっていたんだ。
 そして、ヘンリーさんも戦闘が起きると予測していた。
 僕たちも、フル装備を準備して会議室を出ました。
 引き連れる兵の数もとても多く、念には念を入れるみたいです。

「ナオ、積極的に国のために動くなんて、ヘンリーさんは本当に勇者様だね。素直に凄いと思うよ」
「僕もいっぱい助けられているんだよ。ヘンリーさんって、とっても凄いよね」
「私なんかにも気遣ってくれるし、何よりも正義感に満ち溢れているわ」

 今度は移動しながらサマンサお姉ちゃんと話をしたけど、ヘンリーさんは何よりも国民に害をなすことが許せないみたいです。
 力が強いだけじゃなくて、心も強い感じです。
 使命感が凄いのもありそうです。
 そして、僕たちは馬車に乗り込んでフィース子爵家に向かいました。

「うーん、屋敷はあんまり派手な感じはしないですね」
「貴族主義の連中とはちょっと違うからね。それこそ、ボンバー伯爵家の方がもっと凄かったよ」

 サマンサお姉ちゃんがナンシーさんと話をしているけど、フィース子爵家は意外とさっぱりとした感じだった。
 庭も普通に手入れされているし、良い感じだと思うけど。
 屋敷の門は普通に開いて、玄関も普通に通過できました。
 すると、何故か自信満々といった感じのフィース子爵が僕たちを出迎えました。

「これはこれは、ヘンリー殿下ではありませんか。皆さま、お揃いで我が屋敷においで下さり歓迎したします」

 フィース子爵は、ちょっと小馬鹿にした感じで大げさな仕草をしながら挨拶をしてきました。
 ヘンリーさんも他の人も、思わず呆れてしまいました。

「フィース子爵、我々がこの屋敷に来た理由は分かっているだろう」
「はて、何のことやら。私にはさっぱりと分かりません」

 ニタニタとしながらヘンリーさんに返事をするところを見ると、フィース子爵は僕たちがこの屋敷に来た理由を知っているんだ。
 知っていて、あえて僕たちを挑発する態度をとっているんだね。
 でも、全員フィース子爵が挑発しているのが分かっているので、努めて冷静にしていました。