コンコン。

「失礼します。三家の主人と夫人が到着しました」
「そうか、分かった。通してくれ」
「はっ」

 バンザス伯爵が兵に何とか怒りを抑えた声で指示を出したけど、三人の両親を見た瞬間に殴りださないかとても心配です。
 なので、ここからはヘンリーさんが話を進めるそうです。
 僕的には、ヘンリーさんも表情がとても怖くて、思わずびくびくしちゃっているのですが。

 ガチャ。

 そして応接室に入ってきた三組の夫婦は……
 あれ?
 間違いなく、あの三人の両親だよね?
 見る影もないほどに横に大きくなっていて、ジャラジャラと高そうな宝石を身に着けていた。
 半年前は、あそこまで横に大きくはなかったはず。
 本当に本人かなと思って、思わず鑑定魔法を使っちゃったほどでした。
 短期間でのあまりの変わりように、僕とスラちゃんは思わずぽかーんとしちゃいました。
 一方、特に勇者パーティの女性陣は六人がニタニタとした表情で入ってきたので物凄い形相で睨みつけていました。
 そして、当の六人は何故か期待に胸を膨らませた表情で席に座りました。

「私は、ヘンリー・ガルフォード。ガルフォード王国の第二王子だ」
「お、王子様。では、例の件がもしかして……」

 ヘンリーさんが自己紹介すると、何故か三人の母親たちが色めき立った。
 理由は分からないけど、どうやら何か勘違いしているみたいだ。

「ここにいるのが、バンザス伯爵、私の妻のシンシア、オラクル公爵家令嬢のナンシー、そして、王国王女エミリーだ」
「「「ゴクリ、と、とんでもないメンバーだ」」」

 一方、三人の父親はというと、この場に集まっている面々にとても驚いていた。
 驚きながらも、何か期待をしている言い振りだ。
 そんなメンバーと共にいる僕に、一斉に視線が注がれた。
 うん、「何でお前がここにいるの?」って表情ですね。
 人を見下している、とても嫌な視線です。

「最後に紹介するのが、我々のパーティのメンバーでもあり、『白銀の竜使い』の二つ名を持っている、ガルフォード王国騎士爵のナオ君だ」
「「「き、騎士爵? ナオが?」」」

 僕が立ち上がってペコリと頭を下げると、三人の両親は一瞬訳が分からないという表情をしていた。
 しかし、その後盛大に勘違いを起こしていた。

「ふふふ、ナオが騎士爵を貰えるのなら、息子は男爵か子爵様ね」
「もしかしたら、伯爵にもなっているかもしれないわ」
「きっと凄い豪邸に住んでいるはずよ。嗚呼、私たちにさらなる贅沢が待っているのね」

 特に母親が、息子が僕以上の貴族になったとニヤニヤしながらありもしない夢を語り合っていた。
 そう、ありもしない夢です。
 父親も、指折り何かを数えていたけど、その表情は気持ち悪くて、見るに堪えなかった。
 ということは、まだ三人の両親は三人がどうなったかを知らないんだ。
 これ以上焦らすとバンザス伯爵が三人の両親に殴りかかりそうなので、ヘンリーさんが深いため息を一つついてから話を再開した。

「ふむ、どうやら何か勘違いしているようだな。もしナオ君と一緒にいた三人の冒険者が功績を打ち立てたなら、私たちと一緒にいるはずだろう」
「「「えっ、あっ……」」」

 三人の両親は、ヘンリーさんの指摘で急に現実に戻されました。
 面白いほどに「はっ?」って表情をしたので、シンシアさんたちが思わず「プッ」ってしちゃいました。
 かくいう、僕もドラちゃんも六人の表情が揃った瞬間は吹き出しそうでした。
 更に、真顔のままのヘンリーさんが言葉を続けました。

「結論から言おう。三人は王家に対する反逆罪で拘束され、強制労働刑を言い渡された」
「「「はっ?」」」
「王家主催の炊き出しを襲撃し、もう少しで私の母上である王妃に危害が及ぶところだった。三人が生きて日の目を見るかは、もはや私には分からない。それほどの罪だ」
「「「はっ???」」」

 三人の両親は、ヘンリーさんが話した内容が理解できずにフリーズしたままだった。
 それもそのはず、息子が貴族になったかもと夢見ていたら、逆に反逆罪で捕まって強制労働刑になったのだから。
 お互いに顔を見合わせているが、それでも結論は出ていないみたいだ。

「そもそも、未成年のナオ君を両親の許諾なしに連れ去るのは誘拐にあたり、更にナオ君に対して脅迫、暴行、傷害、恐喝、窃盗、冒険者ギルドに対しての虚偽申告、職員への脅迫、一般市民への詐欺、脅迫など、数えるのも無駄なほどの罪を犯した。私も三人と対峙したことがあるが、私たちに侮辱的なことを言い放っていた」
「「「な、なな……」」」

 うわあ、ヘンリーさんの怒りが爆発しちゃった。
 真顔のまま低い声で、次々と三人の罪状を言いあげていた。
 しかも、かなりの威圧感のある声です。
 これには三人の両親も飲まれてしまい、表情が真っ青になってしまいました。
 視線をキョロキョロとさせてどうにかしようとした時、僕に視線を向けました。

「な、な、ナオが余計なことをしなければ済んだんだ!」
「そ、そうだそうだ! お前が我慢していればいいんだ。息子に従っていればいいんだ!」
「な、ナオ! 息子を返せ、戻せ!」

 自分よりも弱い立場だと思っている僕に、一斉に非難の声を上げていた。
 スラちゃんもドラちゃんも、もちろん僕の両親も怒りの表情を隠していません。
 でも、怒っているのはみんなだけじゃないんです。

「いい加減にして下さい! 自分勝手なことを言わないで下さい! 突然あの三人に連れて行かれた僕がどれだけの苦労をしたのか、あなたたちには分からないんですね!」
「「「!」」」

 僕が目を真っ赤にしながら立ち上がって反論すると、三人の両親は目が飛び出るのではないかってほど驚いていた。
 まさか、僕が反論するとは思ってもいなかったのだろう。
 でも、僕だって昔の僕じゃないんですよ。