「ナオ、お前の存在が俺らには邪魔だ。このパーティから追放する!」

 中世ヨーロッパに似ているが、魔法という異能が存在する別世界。
 そんな世界に存在する風光明媚なガルフォード王国王都の昼下がりの冒険者ギルド内に、若い茶髪の短髪の男の怒号が響き渡った。
 若い男の後ろには、これまた同じくらいの年齢だと思われる茶髪のツンツン頭の男と緑髪のセミロングの男が不機嫌そうな表情をして立っていた。
 そして三人の眼前には、床に尻もちをついて怯えた表情を見せている小さな男の子の姿があった。
 男の子と言いつつ、セミロングのプラチナブロンドに綺麗な青い目をしていて、痩せている体躯と相まって一見するとか弱い女の子の様にも見えた。
 更に男の子の前には透き通るような青いスライムが一匹いて、触手をめいいっぱい広げてまるで小さな男の子を守っているみたいだった。
 
「パーティーから追放する」

 この言葉通り、先程まで三人の男と小さな男の子は同じパーティーメンバーだった。
 しかし、小さな男の子の前にいる男が一方的にパーティからの追放を言い渡していた。

 ざわざわざわ。

 冒険者ギルド内には多くの冒険者がおり、突然の追放劇を目の前にしてかなりざわついていた。
 中には、睨みつける様な目つきをしている冒険者もいる。
 しかしながら、睨みつけられる様な視線は小さい男の子ではなく三人の男に向けられていた。
 どうも周りにいる冒険者は、小さな男の子を見下す三人の男に問題があると考えていた。
 そんな周囲にいる冒険者からの視線も全く気にせず、男たちは更に小さい男の子に酷いことを要求してきた。

「ナオ、有り金を寄越せ。今まで手間を掛けさせた手間賃だ」
「えっ、お金、ですか?」
「そうだよ。さっさと出しやがれ!」

 男の叫び声に小さな男の子はビクッとなってしまい、反射的に肩から下げていたバックからお金の入った革袋を取り出していた。
 そして、震える手でお金を男に渡していた。
 お金を受け取った瞬間、三人はニヤリと歪な笑みを見せていた。
 スライムが小さな男の子を止めようと抱きついたけど、男の子は力なく首を振っていた。
 ここで傍観者だった一人のスキンヘッドの屈強な男性が、受付から厳しい目つきをしながら三人に話しかけた。

「おい、お前ら。本当にナオを追放するんだな? 二言は無いな?」
「ぎ、ギルドマスター。ほ、本当だ。俺等は、パーティからナオを追放する。これは三人の決定事項だ!」
「そうか」

 ギルドマスターと呼ばれた男性に低い声で話しかけられると、男達はさっきまでの横柄な態度が嘘のように戸惑った表情で返答をした。
 男達からの返答を聞いたギルドマスターは、受付嬢に指示を出しつつ後ろに視線を向けて軽く頷いた。
 すると、受付の奥から背の高い美男美女の冒険者が姿を現した。
 男性一人に女性二人のパーティで、男性が小さな男の子に近づいていった。
 綺麗な金髪を短く切りそろえ、甘いマスクに加えて鍛え抜かれた肉体だと服越しにでも分かった。
 後ろに控えている深い青髪のロングヘアでローブを羽織った魔法使いの女性と、燃えるような赤い髪をポニーテールにし勝ち気な瞳の女剣士も金髪の男性の後に続いた。

「ゆ、勇者様。何でここに……」
「確か、地方に行かれていたはずだと」
「い、一体何ですか?」

 三人の男性は、金髪の男性が真顔で放った圧力に汗をかきながら何とか言葉を放った。

 勇者様。

 この世界には勇者という称号はないが、素晴らしい功績を挙げた者には「勇者」という二つ名が贈られていた。
 いま三人の目の前にいるこの金髪の男性は、周りから「勇者」と呼ばれるにふさわしい功績を挙げていた。
 三人にとっては雲の上の様な存在の人物が、まさにいま鋭い目で自分たちを見ていた。

「ゆ、勇者様……」

 未だに尻もちをついている小さな男の子とスライムも、背後から近づいてくる金髪の男性を不安そうに見上げていた。
 明らかにこちらに近づいてきているので、金髪の男性が自分に何かをするのではと思っていた。
 しかし、事態は予想外の方向に動いた。

 ひょい。

「えっ? えっ?」

 何と、金髪の男性が尻もちをついていた小さな男の子を抱き上げたのだ。
 突然の出来事に、スライムを抱えている小さな男の子は状況を全く理解できなかった。
 小さな男の子をお姫様抱っこしたまま、金髪の男性はギルドマスターと呼ばれた男性に声をかけた。

「ギルドマスター、すまないが個室を貸してくれないか?」
「おう、分かった。俺もついていくぞ」
「わわっ!」

 そして、金髪の男性は小さな男の子をお姫様抱っこして、冒険者ギルド内にある個室に向かった。
 金髪の男性の後を女性二人とギルドマスターと呼ばれる男性がついていくが、踵を返した瞬間に三人を鋭く睨みつけた。
 しかし三人は突然の事に馬鹿みたくぽかーんとながら固まってしまい、自分たちが睨みつけられた事に全く気が付かなかった。

 ざわざわざわ。

 冒険者ギルド内にいた冒険者も五人と一匹が個室に向かったのを見て再び動き出したが、一様に安堵した表情を見せていた。
 そして、未だに固まっている三人に声をかける者は現れなかった。