遼との関係が少しずつ深まる中で、桜は自分の心の中に潜む「愛されない」という思いに苦しんでいた。

彼の優しさが、どれだけ心地よくても、桜はその温もりを素直に受け入れることができないでいた。

彼の微笑みや、そっとかけてくれる言葉が、まるでその手を振り払いたいかのように感じる瞬間があった。

過去の出来事が桜を縛りつけていた。

誰かに愛された記憶が、過去の痛みとなって胸に残っていた。

桜はいつも心のどこかで「自分には愛を受け入れる資格がない」と思っていた。

遼が自分に優しくしてくれるたびに、彼女の心の奥底で静かに響く疑問が湧き上がる。

「私は本当に、愛されていいのだろうか?」その答えが見つからないまま、桜はただ恐れ続けていた。

その夜、カフェの片隅で、桜は黙って座っていた。

遼が隣にいるけれど、どうしても言いたい言葉が口をついて出なかった。

言葉が喉に引っかかり、桜の心はざわついていた。

彼の前で、本当の自分をさらけ出すことができない。

それが、桜にとって一番の恐怖だった。

そして、その恐れが抑えきれなくなった瞬間、桜は涙を流していた。

静かに頬を伝う涙が、どこから来たのか分からないくらいに、ただ流れていく。

遼は驚いたように桜を見つめ、何も言わずにそっとその手を差し伸べた。

桜はその手を掴むことができなかった。

ただ、目を伏せたまま、涙を堪えることすらできなかった。

遼は無言で、桜を優しく抱きしめた。

その温もりが、桜の心に触れたとき、彼女の中に冷たい何かが溶けていくのを感じた。

しかし、桜はその優しさを全て受け入れることができなかった。

心の中で繰り返すのは、「これが続くはずがない」「私は結局、愛されることはない」という言葉ばかりだった。

「どうしてこんなにも、怖いんだろう?」桜は胸の奥で、何度もその問いを繰り返した。

温かい腕に包まれているのに、彼女の心はどこか遠くにいるようだった。

遼の手のひらが、彼女を支えるように軽く触れる。

桜はその温もりを感じる度に、また心の中に生まれる不安に囚われていった。

恐れが彼女を支配し、愛を受け入れることができない自分に、ただ沈み込んでいった。

遼は、桜がどれほど傷ついているのか、どれほど自分を閉ざしているのかを、ただ静かに感じ取っているようだった。

しかし、何も言わず、ただ抱きしめることで、桜の涙を受け止めてくれる。

それでも、桜はその温もりを最後まで信じきれなかった。