私は駅への坂道を下っていた。
部活に入っていないから割と早めに帰ることができる。
が、勉強に追いつけず先生に放課後教えてもらっていると家に帰るまでに満員の電車に乗らなくてはいけない時間になってしまう。
気分を落ち着かせたくて、帰り道をそれた。

脇道を通ると公園があった。
周りはツツジに囲まれた、中央には立派なクスノキがある公園だった。

私は鉄棒のそばにあるベンチに座った。
そこにも小さなクスノキが生えていた。
そして、イヤホンをつけ、音楽を流す。

ルイス・ハワードの優しい歌声が流れてきた。
今日、私が弾いた、Walking in the Night を歌っている人。
実際今聴いているのもその曲だ。
というか、私はルイスの曲でこの曲しか知らない。
まだファンになって日が浅い。
しかも、、、ルイスの曲はあの思い出を思い出してしまうから、一歩踏み出せないでいる。

「おい」
 声と同時に私の目の前に人影が現れた。
「ッ!?」
 私はまた驚いて肩を上下させる。
そしてイヤホンを外して顔を上げると、あの音楽室の男子生徒がいた。
相変わらずイヤホンをつけている。

「ルイス、聴いてんの?」
 私の驚きように構わず、そう問うた。
私の前にしゃがみ込み、私の顔を覗き込んだ。
「やっぱりお前、ルイス好きなの?いいよな、ルイス!」
「な、何で此処にいるの?」
「あ?何でって、、、。いちゃ悪いかよ?」
「いや、、、えっと別にいいけど」
「何でもいいだろ。ってかさ、、、さっき、なんか俺お前に言ったらいけねぇこと言っちまって悪かったな」
 ぶっきらぼうにそう言ったあと話題を避けられた。そして急に落ち着きをなくした。
「は?え、えっと、、、」
 私はいきなり謝られて戸惑う。
「謝られても、、、」
「真剣に謝ってんだけど」
「あ、、、えっと、、、」
 こういう時、どう言えば正解なんだろ?
悩んでる間に暖かな風が私の頬を撫でた。
おろしている髪が揺れる。
目の前にいる男子も長い前髪が風で舞う。
「わ、わざわざ、謝ってくれて、ありがとう。わ、私の方こそ、ごめんなさい」
 私は頭を下げた。
イヤホンのワードを出した途端、機嫌が悪くなった気がしていた。
だから私も謝らなければと思った。