「ワクワクするね!」
 英子がはしゃいだ声を出した。
「わ、私はめちゃくちゃ緊張する、、、」
 右隣にいる妃詩が声を振るわせる。
「そっか、今回発表される曲、歌詞ヒナが書いたんだっけ?」
「ぎゃー!言わないで〜!って言ってもちづくんと一緒に書いたんだけどね」
 私を挟んで2人がはしゃぐ。
緊張してるとか言いながら、テンションが上がってる。
妃詩と英子は私が引き合わせると、すぐに意気投合した。今ではもうヒナ、英子、と呼び合う仲だ。

「、、、それにしても人多いわよね」
「それだけ注目されてるってことじゃない?」
 私は英子の問いに答える。
「やっぱり、すごいね」
「うん。、、、いっぱい楽しませてもらおう!」
 楽しみな気持ちでいっぱいになった。
ワクワクと期待した様子でライブが始まるのを待った。

歓声が一段と高くなった。
と思うと、ステージ上に千絃と律が現れた。

少し離れているけど、堂々と胸を張って立っているのがわかる。

「皆さん!今日は来てくれてありがとう!、、、では早速、Night melody 」
 千絃の声がしたと思うと、律のギターがなった。
そして、私の大好きな千絃の歌声が会場に響き渡った。

デビュー曲の歌。
千絃が耳の葛藤を詰め込んだ曲。
私は想いを馳せ、目を閉じて音だけに集中する。
力強くて、優しい。
なんでも包み込んでくれそうな声。
心を溶かすような律のギター。

重なる音の旋律は私を私たちを、会場すべてを包み込んんだ。

「ありがとうございました!」
 Night Melody の後にも、数曲続けて持ち曲の演奏、有名曲のカバーメドレーなど、パフォーマンスが続いた。
そして、千絃がいつになく緊張した様子で、マイクを持った。

「、、、今日は、皆さんにお伝えしたいことがあります」
 真剣に一言一言言葉を発する。
私は自然に身構えた。

 千絃は胸に手を持っていき、リングのネックレスを握り締め、深く息を吸った。
「俺は、、、左耳が聴こえません」
 千絃の言葉に戦慄が走った。

「このまま、耳のことを言わないままだと、みんなに失礼だと思いました。、、、片耳が聴こえないまま音楽活動を続けることを、、、非難する人も中にはいると思います。ですが、俺、Chizu–ru は、これからも、音楽活動を続け、皆さんに歌を届けます!」

 千絃のいきなりの報告に会場中が戸惑いの様子だ。
みんなに公表するとは思わなかった私たちも違う意味で困惑した。
張り詰めた空気の中、千絃が言葉を紡ぐ。

「俺は、、、ある人の音に、救われました。だから、、、今度は、俺が救いたい!俺の歌で、救いたい!片耳が聞こえなくても、俺は、stRINGs melody.の、Chizu−ruです!だから、これからも、奏で続けます。きみへの、、、ファイトソングを。、、、聴いてください。新曲、FIGHT SONG」

 律の方を見て、千絃が頷く。
律も力強く頷き返す。
そして律のギターが響く。
千絃が大きく息を吸った。

千絃が奏でるFIGHT SONGは、、、会場中を魅了した。
今までの演奏の中で、1番心を掴まれる、そんな歌だった。

『だから奏で続ける、君への希望歌(ファイトソング)を。、、、いつまでも、、、いつまでも』

“僕”が“きみ”にエールを送る形式で曲が進み、この言葉で曲がしめられた。

荒く息をする千絃がマイクを下ろした。
会場に一瞬の静寂。
そして、今日1番の大歓声が会場を包んだ。

私は頬を涙で濡らす。
歌詞に込められた想いを静かに噛み締めながら、ゆっくりと涙を流した。
そして、千絃、ことChizu−ruが本当の意味で認められたことも私の胸を熱くした。