「潮見風奏！いるか？」
　千絃が出ていってすぐに笙子先生が現れた。
「はい！」
「潮見風奏、よく聞け。すぐに病院へ行け！」
「病院？」
「あぁ」
「笙子先生､､､まさか！」
　ハッとしたように海先輩が顔を上げる。
「､､､君は、ピアノが途中で弾けなくなるんだよな？､､､一度病院で診てもらった方がいい」
　真剣な様子で笙子先生が訴える。
「この､､､ピアノを弾けないってことが､､､何かの病気の可能性があるって、ことですか？」
　私は笙子先生の言葉が信じられなくて繰り返す。
「違いますよね？また､､､弾けるようになるんですよね？」
「､､､詳しくは、病院に行かないとわからない。私が言えるのは病院へ行け、ということだ」
　笙子先生が言葉を濁すが、私は直感した。
「私が病気なのは､､､ほぼ間違い無いんですね､､､」
「音楽家の中で、楽器演奏をするとき、一定の動作ができなくなるという病気があるんだ。それの可能性がある。一般人のわたしが断言することはできないが」
「､､､わかりました。病院に行きます。､､､あの千絃は、どうしちゃったんですか？」
「､､､あいつ、なんて？」
「ごめん、もうお前とは会えない、と。どうしてですか？」
　笙子先生なら何か知っているかもしれない。
少し期待を込めて続きを待つ。
　だが、返ってきたのは
「わたしから言えるのは、何もない。ごめんな､､､」

「どういうことですか？千絃は､､､」
　私は思わず笙子先生に前のめりになって訊く。
「､､､すまない。わたしから言えるのは何も無いんだ。本人に聞くしか無いだろう」
「そんな､､､」

あの時、どうして後を追わなかったんだろう。
あの時、どうして足が止まってしまったんだろう。
あの時、どうしてもっと千絃と話をしなかったんだろう。
千絃のこと、なんでもっとちゃんと向き合わなかったんだろう。

私は､､､自分に、千絃に、ヒナに、ちゃんと向き合えてた？

私の心の中は後悔で渦巻いていた。