「あのね、いつも止まっちゃう時、指が重たいって感じちゃうんだ。だから、プレッシャーとか不安な心とかを、軽くすればいいのかなって思ったの。だから、空を見た後、ピアノを弾いてみようかなって」
「緊張しないために、ピアノを弾く前に深呼吸してみようかな」
 と私なりに向き合って試行錯誤を繰り返していたある日。

「おーい!誰だぁ?わたしの音楽室にいるのは?」
 と突然声が聴こえた。
私はビクッと肩を上下させた。
「何ビビってんだよ。この学校の音楽教師だよ」
 千絃が呆れたように言う。

すると丸メガネをかけたショートカットの女性が入ってきた。
まだ若そうで、20代くらいに見えた。

「なんだ、お前かよ。って、、、君は?彼女?嘘だろ!早まんな、ほんっとにこいつでいいのか?」
「あ?うるせぇよ」
「あのぉ、違います、、、」
 美人音楽教師は1人で変な方向へ行っている。
「違う?なーんだ。つまんねぇ」
「は?どっちだよ!」
 この2人の関係って、、、?なんか仲良し、、、?私が1人で考えていると、
「あー、こいつわたしの甥っ子。で、わたしは藍川笙子(あいかわしょうこ)。2年担当の音楽教師。こいつがいつも迷惑かけてごめんね」
 この美人音楽教師は千絃と叔母と甥の関係らしい。
「私は、千絃くんのクラスメートの潮見風奏です。あ、い、いえ。迷惑かけてるのって私の方です。」
「そうだぞ。俺、かけられてる方だから。」
 横から突っ込む千絃。
「ふーん、そんなこと言って嬉しいくせに。」
「は?い、いや、そんなわけねぇだろ!!」

「あんなこと言ってるけど、ほんとは君のこと良く思ってるから、気にしないでね。これからも良くしてやってよ。」
 と笙子先生は私に耳打ちした。
「はぁ、、、?」
 と曖昧に頷いた。
「ってか、君のピアノ、すごいな」
「すごい、ですか?」
「あぁ。わたしにはない、たくさんの想いがピアノに乗っていて、切なくて優しくて綺麗な音だと感じる」
 綺麗なものを眺めるかのように笙子先生は話す。
「文化祭、海と出場するんだって?楽しみにしてるよ」
「あ、はい。海先輩ともお知り合いなんですね」
 海、と呼び捨てにするところを見ると相当親しいのだろう。
「海の相棒の方が知り合いでな。そこ繋がりで親しいんだ」
「あ、相棒さんってどんな人なんですか?いつも海先輩教えてくれなくて」
 私はずっと気になっていたことを訊く。
「あぁ、私と同じ歳で『SEI』って名前でギターを弾いてる男だ。音楽の世界にいるのなら、いつか何処かで会えるよ」
「確かに、そうですね。その時を楽しみにしときます」
 SEIって何処かで聞いたような名前、、、思い出せない。
少しモヤモヤが残る私だったが笙子先生の
「あ!これから会議だったの忘れてた!ってか千絃!お前勝手に音楽室開けんなよ!」
 という大声に私の思考はストップされた。
「は?元から開いてたけど」
「マジかよ?まぁいいや。千絃、使い終わったら閉めといてくれ!頼んだぞ〜!」
 嵐のように笙子先生は去っていった。