英子のおかげで赤点は回避できたテスト返しからしばらくが経ったある日。
「お願い!風奏ちゃん!文化祭でピアノの伴奏をしてください!」
「、、、えぇ?」
私は今の状況がわからなくて弱々しい戸惑いの声を上げた。
一生懸命状況を把握しようと頭をフル回転させる。
今、私の目の前にいるのは英子の友達の八雲海。
高校3年生、先輩だ。
そんな海先輩が昼休み、私のいる音楽室に飛び込んできて、手を合わせ頭を下げてきたのだ。
必死な海先輩の隣には気まずそうに佇む英子がいた。
「ピアノの、伴奏って、どういうことですか?」
私はとりあえず訊く。
「夏休みが終わった後、文化祭があるよね?その文化祭のステージにわたし、出たいの!それでピアノの伴奏者を探してて」
「海先輩が歌って、誰かがピアノを演奏するってことですか?」
「そう!文化祭ステージの部で、歌を披露したいの!」
「、、、なるほど」
海先輩の話に相槌を打つが、私はその話の提案の答えは決まっていた。
「でも、私、できないです」
「え!?なんで!英子から風奏ちゃんのことは聞いてるの!」
英子が気まずそうにしているので多分そうだとは思っていた。
「私、最後まで弾けないんです。ピアノ。途中で手が止まっちゃうんです。だから、ごめんなさい」
本当は言うつもりはなかったけど、無理に突っぱねたりしたら嫌な思いをするに違いない。
私の事情を伝え、諦めてもらうしかない、そう思った。
「途中で止まっちゃう?」
わけがわからないようで首を傾げた。
私はピアノが完全に弾けるようには戻っていなかった。
何度も試してはいるのだが、やはり途中で手が止まってしまうのだ。
千絃の歌と合わせることで弾ける時もあるが、どうしても弾けない時もあるのだ。
あの出来事だけがピアノが弾けなかった原因では無いことが、最近明白になったのだ。
だから、こうやって毎日音楽室でピアノに触れる毎日を送っていた。
また、1人でピアノを弾くことができるようになるために。
「、、、色々事情があって、弾けないんです」
私はできるだけ明るく答えた。
「そっか。わかった。突然ごめんね」
一気に肩を落として海先輩は悲しそうに呟いた。
その姿に私は申し訳なくなった。
「おい、風奏、やってみれば?」
突然私の後ろから声が聞こえた。
「千絃?」
「せっかくのステージだぜ。ちょっとずつそういうのに慣れてかねぇといけねぇんじゃねぇの?」
「ま、まぁそうだけど。失敗したら、、、」
「失敗も何も、文化祭のステージだぜ?しかもこの海って先輩、1人でもステージに立てる実力を持ってる人だ。ピアノが止まっても歌は止まらねぇよ。だから大丈夫だろ」
知ったような口調の千絃に今度は私が首を傾げる番だった。
「この人、俺らの事務所の先輩でもあるんだ」
「、、、え!?じゃあ海先輩って、歌手さんなんですか?」
私は千絃の説明の後たっぷり10秒ほど考えたあと、叫んでしまった。
「そう。と言ってもまだ駆け出しなんだけどね。ルイスハワードさんのカバーを出させてもらってるんだ」
「ルイスさんの!私もルイスさん大好きなんです!」
「え?ほんまに?じゃあ、もしかしてルイスの Goodbye to you って弾けるん?」
テンションが上がったように言葉を訛らせながら訊いてくる。
「はい!もちろんです!切ないメロディが最高ですよね!」
つい最近引き始めた曲名が出てきて頷いてしまった。
その瞬間後悔した。
「なら決まりやね!風奏ちゃん!文化祭まで相棒よろしく!ちづくん、風奏ちゃん借りるしね」
喜んだように一気に話を進めた。
「あ、俺、風奏の付き添いなんで」
「オッケー!」
「あ、あたしも!付き添い!」
「この流れやとりちくんも付き添いになるやん」
「じゃあ、律も付き添いで〜」
「オッケーオッケー」
みんなで盛り上がってるところ申し訳ないが、私はこの状況についていけない。
「あの、本当に私弾けないんですけど!」
私はたまらず叫んだ。
「また、逃げるつもりなのか?」
突然千絃の厳しい問いかけが聞こえた。
「あ、、、」
私は息を呑む。
千絃の言う通りだ。
逃げないで自分に向き合わなきゃ。立ち向かわなきゃ。
本気で、弾けるようになりたいって思って、毎日音楽室に来ているのに。
やってみないと、ピアノはいつまで経っても弾けないままだ。
それにもしかしたら、弾けなくなった理由も、わかるかもしれない。
「わかりました。文化祭まで、よろしくお願いします」
覚悟を決め、私は海先輩に向き直った。
「うん、そうこなくっちゃ!でも、無理だけはしんといてな。ちづくんも言ってた通り、途中で止まっても大丈夫だから!」
「はい!ありがとうございます!」
「お願い!風奏ちゃん!文化祭でピアノの伴奏をしてください!」
「、、、えぇ?」
私は今の状況がわからなくて弱々しい戸惑いの声を上げた。
一生懸命状況を把握しようと頭をフル回転させる。
今、私の目の前にいるのは英子の友達の八雲海。
高校3年生、先輩だ。
そんな海先輩が昼休み、私のいる音楽室に飛び込んできて、手を合わせ頭を下げてきたのだ。
必死な海先輩の隣には気まずそうに佇む英子がいた。
「ピアノの、伴奏って、どういうことですか?」
私はとりあえず訊く。
「夏休みが終わった後、文化祭があるよね?その文化祭のステージにわたし、出たいの!それでピアノの伴奏者を探してて」
「海先輩が歌って、誰かがピアノを演奏するってことですか?」
「そう!文化祭ステージの部で、歌を披露したいの!」
「、、、なるほど」
海先輩の話に相槌を打つが、私はその話の提案の答えは決まっていた。
「でも、私、できないです」
「え!?なんで!英子から風奏ちゃんのことは聞いてるの!」
英子が気まずそうにしているので多分そうだとは思っていた。
「私、最後まで弾けないんです。ピアノ。途中で手が止まっちゃうんです。だから、ごめんなさい」
本当は言うつもりはなかったけど、無理に突っぱねたりしたら嫌な思いをするに違いない。
私の事情を伝え、諦めてもらうしかない、そう思った。
「途中で止まっちゃう?」
わけがわからないようで首を傾げた。
私はピアノが完全に弾けるようには戻っていなかった。
何度も試してはいるのだが、やはり途中で手が止まってしまうのだ。
千絃の歌と合わせることで弾ける時もあるが、どうしても弾けない時もあるのだ。
あの出来事だけがピアノが弾けなかった原因では無いことが、最近明白になったのだ。
だから、こうやって毎日音楽室でピアノに触れる毎日を送っていた。
また、1人でピアノを弾くことができるようになるために。
「、、、色々事情があって、弾けないんです」
私はできるだけ明るく答えた。
「そっか。わかった。突然ごめんね」
一気に肩を落として海先輩は悲しそうに呟いた。
その姿に私は申し訳なくなった。
「おい、風奏、やってみれば?」
突然私の後ろから声が聞こえた。
「千絃?」
「せっかくのステージだぜ。ちょっとずつそういうのに慣れてかねぇといけねぇんじゃねぇの?」
「ま、まぁそうだけど。失敗したら、、、」
「失敗も何も、文化祭のステージだぜ?しかもこの海って先輩、1人でもステージに立てる実力を持ってる人だ。ピアノが止まっても歌は止まらねぇよ。だから大丈夫だろ」
知ったような口調の千絃に今度は私が首を傾げる番だった。
「この人、俺らの事務所の先輩でもあるんだ」
「、、、え!?じゃあ海先輩って、歌手さんなんですか?」
私は千絃の説明の後たっぷり10秒ほど考えたあと、叫んでしまった。
「そう。と言ってもまだ駆け出しなんだけどね。ルイスハワードさんのカバーを出させてもらってるんだ」
「ルイスさんの!私もルイスさん大好きなんです!」
「え?ほんまに?じゃあ、もしかしてルイスの Goodbye to you って弾けるん?」
テンションが上がったように言葉を訛らせながら訊いてくる。
「はい!もちろんです!切ないメロディが最高ですよね!」
つい最近引き始めた曲名が出てきて頷いてしまった。
その瞬間後悔した。
「なら決まりやね!風奏ちゃん!文化祭まで相棒よろしく!ちづくん、風奏ちゃん借りるしね」
喜んだように一気に話を進めた。
「あ、俺、風奏の付き添いなんで」
「オッケー!」
「あ、あたしも!付き添い!」
「この流れやとりちくんも付き添いになるやん」
「じゃあ、律も付き添いで〜」
「オッケーオッケー」
みんなで盛り上がってるところ申し訳ないが、私はこの状況についていけない。
「あの、本当に私弾けないんですけど!」
私はたまらず叫んだ。
「また、逃げるつもりなのか?」
突然千絃の厳しい問いかけが聞こえた。
「あ、、、」
私は息を呑む。
千絃の言う通りだ。
逃げないで自分に向き合わなきゃ。立ち向かわなきゃ。
本気で、弾けるようになりたいって思って、毎日音楽室に来ているのに。
やってみないと、ピアノはいつまで経っても弾けないままだ。
それにもしかしたら、弾けなくなった理由も、わかるかもしれない。
「わかりました。文化祭まで、よろしくお願いします」
覚悟を決め、私は海先輩に向き直った。
「うん、そうこなくっちゃ!でも、無理だけはしんといてな。ちづくんも言ってた通り、途中で止まっても大丈夫だから!」
「はい!ありがとうございます!」



